投票券

「『転んで怪我するから坂道で走るな』と100回言っても聞かず爆走を続ける四歳児が、盛大に転んでようやくゆっくり歩き始めた。やはり痛み。痛みが人を成長させる」


 そんなLINEが姉から来た時、私はコロコロドーナツを作っていました。なんか急に食べたくなってさ。


「大家殿は一口で食べられる大きさと申したよな? それがこれか? 大家殿の考えた一口とはカバの一口なのか?」


 やかましい、こういうのは少しずつ距離感測っていきゃいいんだよ。なんでも最初から上手くいくと思うな。

 あーーー、結局のところ上にかけた砂糖の味が全て。


「ところで大家殿、お主にこれが届けられておったぞ」


 そう言って武士に渡されたのは、投票券の入った封筒だった。


「なんぞそれ」


 えーと……そうだな、誰が政治するか決める紙だよ。


「そ……っ!? そんな大事なことを大家殿如きが決めて良いのか!?」


 如き言うな。


「ぜひ某の名を書いてくれ!」


 ダメだよ、ルール違反だよ!

 いや、よしんばお前が出馬したところで絶対投票しないけどさ。私も一応日本の未来は大事だし。


「何故だ? 某が政(まつりごと)をするとなれば、とにかく金を撒くぞ」


 うーん、必ずしもそれがいいとは限らないんだよな。その辺色々複雑で……。


「全ての者に大判を授けるし、病気の者はもっとあげようと思うし、すると老人や子供にも……」


 待ちなさい待ちなさい。


「貧しい者には毎日弁当を届けるぞ!」


 誰が?


「某が!」


 日本全国にか?


「そうだな、流石に一人では難しい。ゆえに手伝ってくれた者には小判を与えようと思う」


 激しいインフレの予感。あと凄まじい汚職が発生する予感。


「ふふん、特別に大家殿は某の右腕にしてやってもよいぞ」


 ほら言ってるそばからここに不正が生まれたもん。もうオギャーっつっちゃった。


「ぬぬ。もしや案外難しいのか? 政」


 そうだね。気持ちはまっすぐでいいと思うけど、少なくとも今のお前にゃ向いてかな。


「む……ではせめて投票だけでも……」


 あと、お前は住民票無いから選挙権も無い。


「ぬうううううんっ!」


 手足をじったんばったんさせて不平を表明する武士である。動画撮ってTwitterに上げたろかな。


「某も日本の未来を左右したい!」


 どんまい。

 みんなは武士の分まで投票行こうね!

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