熱が下がったよ

 38度の熱が、四日ぐらい下がりませんでした。


 いや、日中37度台まで下がってた時はあったから、常にってわけじゃないんだけど。でも驚いたなぁ、あんまり熱が高いと眼球から水分が蒸発して目ぇカラカラになるんだね。それかシンプルにドライアイ?

 とにかく、ようやく無事安定して37度台になって参りましたことをここに報告いたします。ほんとやめてよ、こちとら普段35度台の人間なんだよ。ギリギリゾンビに生存認定される体温で生きてんだわ。風邪菌側も人間と生きていこうとするならもっと相手の事情も考慮すべきだと思う。


 そのくせ、内状はただの風邪でした。いやどんだけ凶悪なやつに当たったんだ。それかシンプルに歳のせい?


 まあ、この際そこはもういいんですよ。


 困ったのは、私より一足早く治った武士の奇行です。


 最初のうちはまだ良かった。甲斐甲斐しく私を世話してくれたり、レトルト食品を調達してくれたり、冷えピタ貼ってくれたり(それは一人でできると言ったが譲らなかった)。

 だが、一向に熱が下がる気配も無く鼻水と痰に溺れそうになっている私に、奴は段々と不安になったらしい。ある日、ぽつりと私の枕元で呟いたのである。


「祈祷が……必要だな……」


 やだなぁ、それ現代日本において最後の手段じゃん。


 そこからの行動がまた早いの何の。お湯を沸かし、ぬいぐるみ達を等間隔に並べ、蝋燭を探したが無いので懐中電灯とスマホのライトで代用し、お香を探したが無いのでトイレの芳香剤を持ってこようとしたが私に止められたのでやむなくトイレの戸を開け放つことで妥協した。やめろや。

 っていうか、どういう基準でやってんの。


「見様見真似だが、暗黒昇竜突進流の祈祷である」


 言いたいことはたくさんあるけど、昇るのか突進するのかどっちかにしろよ、竜。


「実は某が腐った柿を食って寝込んだ時にも、師匠が同じようにやってくれてな」


 そんでやっぱあの剣の師匠が絡んでたか。絶対それ面白がってるだけだからさ、分かれよもう。ちょっと懐かしそうに微笑むな。


 こうして武士は私の為にモニャモニャと祈祷を始め、ツッコミに疲れた私は最後まで見届けることなく寝たのです。

 しかしなんとも間の悪いことに、翌日熱が下がってしまいました。


「某の祈祷のおかげだな! 師匠にやってもらった時も翌日治っていたものだ!」


 当然、鼻高々の武士です。いやー、どちらも薬と自己免疫のお陰だと思うけどね。

 で、いそいそと出かける準備を始める武士。


「今晩もしまた熱が上がった時のために、香を買ってきておく」


 私への思いやりが斜め上である。でも気持ちはほんとありがとうね。気持ちはね。

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