血迷った話
今日も世界はごとごとと動く。政治だったり経済だったり、人との繋がりだったりを素知らぬ顔で乗せながら。
そんな中で、私のようなちっぽけな存在があれこれ悩もうとて、取るに足らないことなのである。
「あーあ! 俺も先輩みたいに彼女と同棲したいです!!」
いや、ぶっ飛ばすぞ後輩。
どこだ、どこにいるんだよ私と同棲してる彼女。「#おうちデート」ってタグくっつけてインスタに二人分の晩飯上げてるご機嫌な女性はどこにいるのかって聞いてんだ。
あーーーやだやだやだ何が私はちっぽけな存在だ。世界というものは客観的事実じゃなく主観でできてんだよ。つまり私がキツイって言やそれが世界の一大事なんだ。よそのことなんざ知るか。
滅びろ世界。
「ご機嫌ななめであるな、大家殿!」
そして悩みの根源であるアホが鍛錬から帰ってきた。
おかえり。
「うむ、只今帰り申した!」
……。
武士は、現代日本人にしては小柄な体格である。だが、ムキムキだ。ムキムキ過ぎてMサイズのシャツだとピチピチになりかねないぐらいだ。
が、一縷の望みを託して武士に歩み寄る。そして、そっと頭にロングヘアのカツラをかぶせてみた。
……。
……ダメだ。ロン毛のムキムキマッチョマンにしか見えねぇ……。
「何事であるか!」
いや、うん。ほんとなんなんだろな。ごめん、血迷ったわ。
同棲してる彼女がいるって噂だけが先行して私の婚期がどんどん遠のいてっからさ、せめてガワだけでも女の子と暮らせねぇかなと思ったんだが……。
「わかったどすえ。力を貸すどすえ」
ムカつく。
「女人の着物をよこすどすえ」
ごめん、そこまでは用意してねぇんだよ。たまたま手元に会社の一発芸で使ったカツラがあったってだけで。
「む? 芸事で使ったのならそれこそ服もあるだろう?」
……。
「……」
……まあ、この話題は終わりにしよう。ご飯にしようぜ、武士。
「あるのだな!? 某着てみたいぞ、ふりふりのひらひら!!」
うるせぇ、捨てたわ! 全部捨てたわ!!
「ということは着たのだな!? その時のしゃしんは残っておらんのか!」
焼いた! お寺で焼いたから!
「大家殿ー!!」
まあ、男だったら人生で一度は女装するかさせられるかするよね。可愛いうさちゃんのもこもこパーカー着せられて、ショートパンツにニーハイ穿かされた記憶は私にはもう無い。
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