千羽鶴
今日の武士は、朝からせっせと折り紙で鶴を折っていた。
一羽折ってはキリで穴を開けて糸を通し、「うむ」と眺めてまた折り始める。
その数は、既に二十を超えていた。
……何してんの、武士。
「鶴を折っておるぞ」
どこで習ってきたのよ。
「元々知っておった」
ふぅん、江戸時代にはもう折り紙の文化あったんだ。
え、なんでそんないっぱい折ってんの?
「てれびでな、やっておったのだ。千羽折った鶴を火で焚き上げたものを湯に煎じて飲めば、どんな怪我や病気も治ると」
ンなことねぇよ?
いや混ざってる混ざってる。千羽鶴の効能混ざってる。どこのテレビだよそれ、一言物申してやらなきゃ。
は? 覚えてない? うんじゃあ多分それお前勘違いしてんだよ、内容。
千羽鶴は、病気や怪我の治癒、平和を願う代物です。
「ぬぅ!」
抵抗すんな!
つーかなんでお前、千羽鶴なんかいきなり折り出したのよ。暇なの?
「違う」
ああそう?
「……大家殿が、怪我をしただろう」
……。
「怪我をしておれば、十分に動けん。病は気からというが、言葉を返せば病は気を挫かせるのだ。だから某は、一日でも早く大家殿にその怪我を治してほしいと思い千羽鶴を折ろうと思ったのだ」
……お前……。
「だから一刻も早く、某は鶴を折る。大家殿には早く良くなって欲しい。そう願いを込めてな」
……馬鹿野郎。
お前、本当に馬鹿野郎だよ。
「ふふ、そう泣くでない。男だろう」
泣いてねぇわ。泣いてるとしたらお前の馬鹿さ加減に泣いてるんだわ。
オメェ怪我ってまさか、私が髭剃り失敗した時にできたこの傷のことを言ってねぇだろうな。
「いかにも」
いかにも、じゃねぇわ! こんなもん千羽折る前に余裕で治るわ! 何なら新しい傷こさえるわ!
「もう家にいてできる遊びは一通りやりつくしてしまって、べらぼうに暇なのだ。だがこれなら熱中できるし大家殿の怪我も治るし」
働けばー?
内職すればー?
ねぇねぇ武士さんよー?
「身分証明書が無い」
世知辛い武士だな、もう!
千羽鶴をメルカリで売ることは可能なんだろうか。
着々と出来上がっていく鶴を横目に、私はそんなことを思っている。
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