カビ
敷布団のシーツがカビていた。
あちゃー、と思った。いや、前々から気付いてはいたんだよ。でも埃かと思ってたんだ。黒い靴下とか履くし。
もうね、全然カビだった。バリバリカビ。かびるんるん。
「咳の原因はそれではないのか」
そして武士のこのダメ出しである。
ぐうの音も出ねぇな。
でもそう言う武士はどうなのよ。武士をどかし、敷布団をひっくり返してみた。
……よーく見たら。
ものすごくよーく見たら、黒い点々があった。
おいカビとるぞ、武士。
「許容範囲だ」
カビに許容範囲とかねぇんだよ。
まいっか。カビてるのがシーツとかだけなら、漂白すりゃあ何とか……。
私の布団のシーツを剥がしてみる。うん、まあ綺麗なもんだ。
武士を見ると、私を真似してシーツを剥がしていた。うんうん、言わなくてもちゃんと確認してくれてるな、おりこうさんおりこうさ……。
「ぬあああああああああ!!」
ああああああああああああ!?
武士の雄叫びに驚き、振り返る。
青ざめた武士の手に掴まれたその敷布団は――。
――武士の寝床は、かびるんるんの聖地になっていた。
そんなわけでニトリに来た。
「大家殿は! 家に! おれ!」
ダメだってお前一人で買い物とか! しかもニトリだぜ! 絶対いらねぇもの買うだろお前ゲホゴホゲホゲホ
「ほらな! せめて今日明日は家で養生せねばならぬ体なのだ!」
いやいやそんなことねぇよゲホゲホ。
これ咳喘息(状況証拠のみ)だから! 他人には移らねぇからエホエホ。
「ならぬならぬ! 某に任せろ! 某が最高の布団を選んできてやろう!」
だーかーらー! それが全然信用できねぇっつってんだよゲホゴホエフエフ!!
そんなわけで、二人でニトリに来た。
「ここはいつ来ても住めそうだな……!」
武士の感想に全面同意である。ここはホームセンターや無印良品と並んで、ゾンビに街を襲撃された時に一時籠城したい場所だと思う。いや、食料品が無いからきついか……?
とりあえず、アレコレ見て回りたい武士の首根っこを引っ掴んで、布団コーナーに行く。相変わらず手頃な価格で色々あるもんだ。ほんとありがたい。
その中で、一番おすすめされていた敷布団をカートに乗せる。機能性とかよく分からないので、結局店員さんが勧めるものを買ってしまう。それが私。思考停止だの何だの言われるかもしれないが、消費者としては望むべき姿ではないか?
「大家殿! この枕なぞふっかふかだぞ! 永遠に手が沈んでいく!」
おー、でも枕カビてないからさー。
つーか買った所でそのちょんまげだと使えねぇだろ。
「大家殿! この湯呑みを見ろ! 底がキラキラして……! キラキラしておる!」
おー、でもうちのコップカビてないからさー。
あ、これいいね。プラスチックだから割れないのか。
「大家殿! 椅子が沈むぞー……!」
ニトリに来たらソファー座っちゃうよなぁー!
もう買おっかなぁ。でもただでさえ狭い部屋がますます狭くなるし。
うーん……。
んー……。
……いやいや、敷布団買いに来たんだよ。買いません。買うとしても「買う!」って決めてから来るよ。
なので、無事敷布団とコップを手に入れて帰ってきた。
「キラキラ! キラキラだぞ!」
……え、コップ?
コップはいいんだよ。割れにくいし、ほら武士も喜んでるし。
「水を入れたら……? おおおおー!!」
うん。
ニトリは魔境だからさ……。
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