元カノの話
「大家殿は嫁を貰わぬのか?」
――おぅふ。
朝からとんでもなく破壊力の高い質問をされ、私の鳩尾が痛んだ。
やめなさい、何の前置きもなくそういうこと聞くの。
「某も人のことは言えぬが、大家殿もいい年だろう。そろそろ身を固めてはどうだ」
身を固めたらまず間違いなく私はお前を追い出すんだけど、それを分かってて言ってるんだよな? 覚悟の上だよな?
まぁ彼女すらいないんですけどね!
「某は知っておるぞ。この時代では大規模なお見合いが催されているのだろう? それに出てみてはいかがか」
……あー、婚活パーティーのこと?
二回ほど出てみたけど面倒くさかったんだよな。
参加したヤツが悪かったのかもだけど、もうなんかすげぇテンションとかアゲアゲでさ。ノリについていけなくてそこからもう参加してない。
「むう……もったいないな。この時代は身分も平等であり、自由に恋ができるのだろう? 大家殿にも、かつてそういった者はおらんかったのか?」
あ、聞いちゃう? へえー、聞いちゃう?
言っとくけどちょっと面白いよ。
「ぬ、面白いとな。ぜひ聞こう」
うん、じゃあ教えてやる。
高校生の時ね、彼女ができたんだよ。
「ほう」
なんか好きとかはよく分からなかったけど、別にその子のこと嫌いじゃなかったし、付き合うことにしたのね。で、結構その子とは仲良くやってたと思うんだけど。
「うむうむ」
ある日浮気されまして。
「おお」
しかもね、相手が私の入ってた部活の同級生だったんだよ。あちゃーやられちゃったーと思ったけど、なんつーか、彼女が友達に告白してOKもらったから私をフった、みたいな感じだったから、大っぴらに浮気とも責められず。まあ元より責めるつもりも無かったってのもあって。
「ふんふん」
それなりにショック受けつつも、そのまま別れたんだよ。
「ぬう……」
で、一ヶ月後。
元カノがフられた。
「おお?」
いやー、元カノが私の所に来て「あの時はあなたを試したんだ、愛の深さを知りたかったんだ」と言った時にはもう目が点になったよね。当然受け入れるはずもなく、バイバイしたんだけど。
「それは少し胸がすく思いがするな」
ああ、そう?
「しかしそうなってくると気になるのがご友人殿についてだな。かの者は大家殿と女が恋仲であると知っておったのだろう? なれば何故、引き裂くような真似をしておいてまで別れを切り出したのだ」
うん、私も気になったからね、聞いてみたんだよ。
そしたらさ、そいつ好きなヤツがいるって言うんだ。
「ふむ」
コイツ不誠実な男だなー、って思いながら誰なのか尋ねるじゃん。
「うむ」
そしたら、私を指差してきた。
「…………」
……。
「…………うん?」
うん。
「……大家殿のことか?」
うん。
すげぇ綺麗な三角関係ができてたんだな、と思ったよ。
「……それは……面白いな……」
だろ。
丁重にお断りしたんだけど。
「おお……まあ、そうだな」
拗れ倒すことになるからね。
いやぁ、本当にこんなことってあるんだな。
「……大家殿も、なかなか修羅場をくぐっておったのだな」
まぁね。
だからかな。羨みはするけど、積極的に恋愛をしたいとも思わないんだよなぁ。
「然り。あれは無理にするものではないな」
然り然り。
そういやお前も許嫁に逃げられてたな。
お互いなんか色々あるよね。でもそれが人生だな。ドンマイドンマイ。
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