靴下(武士の場合)

「足袋と靴下は違うのか?」


 大体一緒だよ。

 だからあんまり気にしなくていいよ。


 そう伝えると、武士は黙って靴下を履いた。


 ……可愛らしいハリネズミが無数に漂う、靴下を。


 違うんです、そういう柄なんです。

 決して、生きたハリネズミが靴下を寝床にわさわさしているわけではないんです。


 だが、これだけでは終わらない。他にも無数の猫ちゃんが乱舞する靴下、一匹のカピバラさんがはむはむ何か食ってる靴下、ミーアキャットがひなたぼっこしてる靴下など多数ご用意がある。

 もう我が家の靴下だけで動物園ができるぐらいだ。どうなってんのほんと。


 弁解させていただくと、武士の趣味である。

 先日靴下屋に連れて行き、好きな靴下を選べと言ったのだ。すると武士はカゴいっぱいに可愛い靴下を入れて、帰ってきた。


「……選ばれし者たちだ」


 何か知らんが厳密な審査があったらしい。いや知らんよ。


 そういう事情で、武士の靴下はことごとく可愛い。


 けれど、それを足に履く、というのに最初は抵抗があったようだ。


「こんなに愛らしいのに、足を入れるのか? 良いのか? 形が変わり、傷むのが早まるのではないか?」


 そんなこと言われても、靴下ってそういうものだから……。


 だが、最終的には履いた。それでもしばらくは足を上げ、床を踏まないようにしていたのは見ていてちょっと面白かったのである。

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