私には、友達がいない。



 いない。



 実はここ最近、ずっと考えていたのである。この私に、友と呼べる者はいるのだろうかと。


 勿論、小学校、中学校、高校と段階的な社会的コミュニティの中に生きてきてはいた。特に大きな人間トラブルも無かったし、卒業アルバムをめくればそれなりの人数のクラスメイトに囲まれて笑っている私がいる。


 だが、それだけである。


 社会人になった私には、定期的に会ったり連絡を取り合ったりするような仲の人間は一人もいなかった。

 かといって、それで別に寂しいと思うようなこともなかったのである。まあ、それはそれでいいか、といった感じで。


 現代社会にはゲームも本も漫画もある。その気になれば死ぬまでお一人様がエンジョイできてしまうのも大きかった。


「……なるほど。だから大家殿は、たまの休日であろうと某に付き合うてくれていたのだな」


 他愛のない話の延長線でそんなことを話したら、武士にそう返されてしまった。

 なんか腹立つな。なんでだろう。


 武士は箸で肉じゃがの人参を挟みながら、言った。


「しかし大家殿、人は一人では生きていけぬ。この人参を作った者、人参を運んだ者、人参を袋詰めした者、人参を売った者、人参を調理した者、人参を食べる者……。そう、人参一本にもたくさんの人間が関わっておるのだ」


 うん。


「……」


 ……。


「……某は何を言おうとしたかな」


 知るかよ。


「まあいい。大家殿、心配なさるな。某がおるではないか。な?」


 うわー、そこ落ち着いちゃったよ。多分今回の話が始まってからというもの、読んだ人全員が全員そんな感じに終わるんだろうなと察してたと思うよ。いっちょまえに流れ読むなや。


 でもなぁ、武士。

 友ってあれかな。

 顔も知らねぇ他人の家に平気な顔して居座って、お菓子やら今食ってる肉じゃがやらをもりもり食べてエンゲル係数圧迫し倒す人間のことを指すのかな。


 ねぇどうだろうな、武士。


「……大家殿、やはり芋は少し煮崩れるぐらいが旨いと思わんか?」


 話題逸らすなや!!


 友の定義とやらはよく知らんが、やはりコイツには早急に江戸に帰ってほしいと思う私なのである。クール宅急便とかで送れねぇかなマジで。

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