靴下
なぁ、武士よ。
「なんだ」
お前さ、私の靴下片っぽ知らない?
そう尋ねると、武士はテレビから目を外すことすらせず答えた。
「知らぬ」
知らぬわけあるか。
洗濯物担当お前じゃん。じゃあしまってる段階で靴下片っぽ無いって分かるじゃん。だからお前知ってるはずじゃん。
「ええい、知らぬものは知らん。某はちゃんとしまったぞ」
ん、そうか?
なら、私の記憶違いかな……。
そう思いながら、もう一度靴下入れをあさってみる。が、やはり無いものは無い。
というか、そもそもここに無かったから武士に尋ねたのであって。
おいやっぱり無いぞと武士に声をかけると、ヤツもあちこち探してくれている所だった。
「無いな、大家殿」
ゴミ箱を開けて言うな。あるわけないだろ。どんなうっかりだよ。
靴下ー、靴下ー、靴下ー。
呟きながら探していると、武士が食いついてきた。
「大家殿、なんだその呪文は」
え、知らない? 物を探してる時って、名前呼んでやったら出てきやすくなるんだよ。
「知らんな」
そっか。
武士んとこではそういうおまじないとか無かったの?
「ぬぅ、強いて言えば……」
強いて言えば?
「物探しの舞」
物探しの舞!?
「くーつしーたーよー、あああ、くーつしたぁーよぉー」
両手を上に上げ、足をひょこひょこさせる謎の舞を披露してくれる武士。
いや絶対物探しには非効率だろ。
しかし動きが面白かったので見守っていると、武士はそのまま部屋を出て行った。
数秒後。
「大家殿、あったぞ!」
嘘だろ!? マジで効果あんの!?
慌てて武士のもとに行くと、洗濯機に手をかけた武士がしおしおになった靴下を掲げてドヤ顔をしていた。
……お前ソレ……!
干すの忘れてただけじゃねぇか……!
「そうとも言う」
そうとしか言わねぇんだよ!
つーかちゃんとしまったって嘘じゃねぇか!!
「とにかく、これで明日もしのげるな、大家殿!」
流石に別の靴下で行くわ!!
私は武士の手から靴下をひったくると、風呂場に干しに行ったのであった。
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