ヒモ
他人の噂話や芸能人のゴシップやら、ドラマやらWEBサイトの漫画広告やら。
そんなものでソレを見るたびに、何故人はこんな不毛な生き物を飼うのだろうと鼻で笑っていた。
ヒモ。
ヒモ男。
パートナーの収入をアテにして自力で生活しようとしない男のこと。
……あれ、私ソレ家に置いてね?
「其れは“ヒモ”ではない」
言及すると、武士はムッとして言った。
そもそもヒモは知ってんのかよ……。テレビ教育すげぇな。
「ヒモとは、おなごに金銭を貢がせ本人は家でだらりと暮らす情夫を指す。某は情夫ではないし、もとより大家殿の好意に甘えて部屋を借りているだけで、貢いでもらおうとは微塵も思っておらん」
……。
借りてるだけなら、いつか返してくれるのか。
「うむ、返すぞ。大家殿が江戸にやってきた時には、好きなだけ我が屋敷に居座るがいい」
あ、そういうやり方ですか?
状況がまずあり得なくね?
「分からんぞ。某だってある日突然ここに来てしまったのだ。逆が起きんとは限らん」
まあ、そうか。
そんじゃもし私があの時お前を追い出して、その上で私が江戸にタイムスリップしたらどうしてたの?
「その時は、武士の誇りをかけて、『こいつは嫌なやつ』だと触れ回っていた」
お前性格悪いなぁ。
知らない土地、知らない時代でそれをやられたら野垂れ死ぬぜ。
「そうだろう。某も、大家殿が助けてくれねば恐らく同じことだった」
そう言うと、武士はトッポをかじりながら振り返った。
「つくづく、大家殿には感謝しか無い」
そういうもんかねぇ。
ともあれ、私が武士を家に置く理由が一つできた。
いつか私が江戸時代にタイムスリップした時に、そこで拠点を得るための保険である。
……。
いや、だからあり得ねぇだろ!!
「あ、やはりさっきの問いは“B”が正解だったぞ! 某はそうだと思っていたのだ!」
一方の武士は、もうこの話題に飽きたようでテレビに夢中になっている。その姿を見ていたら私も考えるのが面倒になり、トッポを一本つまんだのだった。
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