改札と電車

 そういえば、改札機を初めて見た時の武士の高揚っぷりといったらなかった。


「だ、駄目だ! 引っ張るでない! これが無いと鉄の箱に乗れぬ……ああーっ! よせっ! あ、板が開いた。お、おお……通っていいのか? まことか? それだけでなく……お主、通行券も返してくれるのか……? ……すまぬ、某は主を勘違いしておったようだ……!」


 めっちゃ面白いけど、できれば他人として見たかったな。


 電車にも相当ビビっていた武士だったが、無理矢理背中を押して乗車させた。満員電車でもないのに。私は駅員でもないのに。


 車内での武士は、発車するまでずっと椅子にしがみついて震えていた。後で聞くと、どうも電車の速度に負けて後方に吹き飛ばされると思っていたらしい。


「満員電車とやらは、そうやって吹き飛ばされない為の手段ではないのか?」


 それを聞いた瞬間、私の脳内にコウテイペンギンの姿が浮かんだ。

 彼らは過酷な南極の大地で、凍え死なないよう円陣を組んで互いを温めているという……。


 いや、満員電車と全然関係なかったわ。


 江戸で暮らしていたままだと到底見ることはなかっただろう速度で流れる景色に、武士は目を剥いて見入っていた。

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