第4話 ずるい笑顔
最寄り駅から街路樹の並ぶ通りを少し歩くと、落ち着いた街並みに溶け込むように、GROW本店が建っている。
学生時代よく買い物に来ていたお店に、社員として来ることになるとは想像もつかなかった。感慨深く見上げる美琴を放置し、日高は淡々と裏口へまわる。
日高は裏口をナンバーキーで解錠し、さらに内扉を持っていた鍵で開けるとそこは事務所になっていた。数席置かれたデスクに女性が座っている。
「あら、日高くん。おはよう」
「おはようございます。小村さん、新人の仕入れ担当です」
小村と呼ばれた女性が立ち上がる。日高より少し年上の落ち着いた雰囲気だ。
白いブラウスに茶色のロングスカートというシンプルさなのに、かっこよく着こなしている。
「店長の小村です。私も数年前まで仕入れにいたのよ」
「え、そうなんですか!」
急に親近感が湧いてくる。
「それで店長ですか……すごいですね」
「今も楽しいけれど、仕入れも楽しかったわよ」
ふふっとわらうきれいな笑顔に引き込まれそうだ。仕事を楽しいと思える日がいつか来るんだろうか。
「しっかり覚えていってね」
日高について事務所から店内へ出てみると、十時の開店を控えてスタッフが準備中だった。箱から商品を取り出して並べたり、レジを確認したり。美琴も学生時代にアルバイト先でよくやっていたので見慣れた光景だ。
ネームプレートにもなっているIDカードをつけるよう言われ、社内同様首から下げた。店舗スタッフは胸に白いシンプルな名札をつけている。
美琴に気づいたスタッフの一人が、意味ありげな表情で日高に笑いかけた。
「日高くん、おはよう。もしかして噂の新人?」
噂って?
「ちょっと山崎さん! 北川、いいから挨拶しろ」
珍しく慌てた様子で明らかに話を逸らした日高に、研修結果か大遅刻の面接を知っているのだろうかと思いあたる。
日高が広めているのだろうか。いや、どこから漏れてもおかしくない。遅刻だって前代未聞だろう。初対面のスタッフにまで気が重くなる。
美琴は今日何度目かわからない挨拶をした。
「よろしく、山崎です。向こうにいるのは平野、ここでは一番年下よ。今日は休みだけど、三雲と竹田もいるわ。なんでも聞いてね」
平野は森谷くらいの男性で、物腰が柔らかそうだ。みんなに諸々の失敗がばれているのなら取り繕うものもない。
「はい、お願いします!」
いっそ開き直って頭をさげた美琴に、「元気いい子じゃない」と山崎は笑った。
「店内見学させてもらいますね」
「はいはい、どうぞー」
日高に答える山崎は、その受け答えからかなりのベテランらしいことが伺える。
スタッフの邪魔をしないように、日高が美琴に説明をしていく。
「基本的にレイアウトは全店同じだ。こっち半分は定番ラインで、定期契約しているブランドやオリジナルがメイン。向こう半分は一点物とコラボ商品。メンズとレディースは半々ってとこだな。細かい部分は各店舗に任せてあるし、季節イベントになると関西なんかわりと自由なレイアウトで攻めてるときもあるな」
そこは研修でも習ったし、ここのレイアウトはよく来ていたので知っている。
数量の少ない高品質な日本製の商品となると、ファストファッションのようなお手頃価格では手に入らないけれど、かといって高級ブランドのように目を剥くお値段でもない。
美琴はここで扱われる商品のデザインと質感が好きで、バイト代を貯めては少しずつ買っていた。服もアクセサリーも丈夫で飽きることなく、使える年数を思えば決して高くない。
「十時です。開店します」
小村の声で入り口の扉が開き、通りに面したショーウインドのブラインドも開けられた。開店を待っていたお客さんが十人近く入ってくる。
「いらっしゃいませ、ようこそ」
落ち着いたトーンの丁寧な挨拶で出迎える。アパレルショップによっては、テンションの高い出迎えがセオリーになっているところもあるけれど、親会社が展開する店舗もGROWも、百貨店の接客に近い。
スタッフはお客さんの動きをさりげなく目で追うけれど、ついてまわることはしない。聞かれたら即座に対応するけれど、必要以上に押すこともない。
その自由に見てまわることのできる雰囲気が、店員がついてくることを苦手としている美琴には心地がよく、何度もリピートしていた理由の一つでもある。
日高に説明を受けながら店内を見てまわる間に、一点ものだというワンピースが売れた。
「あのワンピースのサプライヤーは普通の主婦だったのよ。趣味でご家族の服を作られていたのを、お友達の書いたブログで知って交渉に行ったの。生地から糸まですごくこだわりがあって縫製も丁寧だから、店頭に出るとすぐに売れちゃうのよ」
お客さんが帰ったあと、小村が教えてくれた。
「そんなサプライヤーをどこで見つけるんですか?」
日高よりも小村の方が話しやすく、美琴はつい小村に顔を向けてしまう。
「他のサプライヤーから情報が入ることも多いわよ。実店舗でもネットでも、個人でお店を出している人もいるから、いろんなお店をチェックすることね。一般の人が集まる手作り作品のイベントも素人の集まりと侮れないのよ。すごい腕前の持ち主が隠れていたりするからね。開拓する場所は広いわよ。がんばって!」
「はい!」
小村の笑顔につられ、やる気が出てくるのが不思議だ。店長に抜擢される所以だろうか。
「ちょうどいい、今売れたぶんを追加注文するぞ」
小村に頭をさげ、事務所へ戻る日高の背中を追う。
事務所のパソコンを立ち上げ、日高は自分のIDとパスワードを打ち込んだ。
「タブレットは使わないんですか?」
タブレットがあれば、どこからでも注文できるのにと疑問を口にした。
「紛失したときの損害が大きいからな。うちの商品でそこまで緊急に注文しないといけないようなものはないだろ」
言われてみると納得だ。
受注ファイルを開き、先ほどのワンピースのブランドを探す。アルファベット順に並んだ大量の名前を前に、美琴はブランド名もわからないことに気づいた。
「『horn』だ。たしか、ご家族のイニシャルを並べたと言ってたな」
「よくご存じですね」
「昔、小村さんと俺で採ったからな」
「そうだったんですか」
「店で扱っている商品は覚えていけよ。ほら、自分で注文してみろ」
言いながら日高が席を空け、美琴は慌てて座った。発注方法はネットショッピングとよく似ていて、注文した商品の写真まで出てくるのでわかりやすい。
「サプライヤーは受注確認をメールでくれる。それは店長がチェックするから」
「写真も出てきてわかりやすいですね」
「メールで発注できる相手だと楽だけどな。電話発注もミスは少ない。FAXのみの注文が一番気をつけるとこだな」
「FAXしかないこともあるんですか?」
「数は少ないけどな。例えば、ほら」
座ったままの美琴の横から、器用にマウスを操作する。
ブランド名をクリックすると、『FAX注文のみ』との文字が出てきた。日高はデスク横の棚から分厚いファイルを取り出し、中から一枚の用紙を取り出した。
「これがそのFAX注文書。うちの規定用紙で受けてくれるところもあるけど、先方の指定用紙しか受け付けないところもあるから、その場合は書き方に気をつけろよ。書き方がややこしいところには、注文書と一緒に注意書きのメモが挟んである。雑貨類は一箱か一個かを確認しろ」
「はい、わからなかったら聞きます」
「よし」
美琴の返事に日高が頷いた。
店内に戻ると、お客さんはさらに増えていた。
商品整理をしながら見てまわっていると、色違いのスカートを手に持ち、「どっちにしよう」と見せ合う二人組が目に入った。
「青いカーディガンに合うかなあ」
そんな声が聞こえ、美琴はそばの棚に並べられた中から、薄手の青いカーディガンを探し出して二人に声をかけた。
「こちらと合わせてみられますか?」
「わあ、ありがとうございます。手持ちにあるんですけど、合うかなと思って」
笑顔になった二人は、カーキ色のスカートに青いカーディガンを合わせる。
「かわいいですね」
「わりとどんな色でも合いますよ。ピンク系でもかわいいですし」
習ったばかりのカラーコーディネートの知識を総動員させる。
「このあいだ、ベビーピンクのカットソー買ったんです。じゃあこれにします!」
女の子は嬉しそうに笑ってくれた。美琴は二人をレジへ案内し、購入のお礼を述べて離れる。やっぱり、お客さんとのやり取りは楽しい。
商品整理をしながら日高を伺うと、三人組の女性客に囲まれていた。
驚くようなにこやかな笑顔でコーディネートを提案し、女性客がきゃっきゃと騒いでいる。見た目は悪くない日高だから、女性客に人気があるのもわかる。
しばらくして、女性客はそれぞれに日高がコーディネートした品を手にレジへと向かった。
「日高くんファンって多いのよ」
背後からの声に振り返ると、平置きのTシャツを畳み直す山崎がいた。
「コーディネートも上手だし、あの笑顔でしょ。いつもいるわけじゃないから、勤務日よく聞かれるしね。まあ売り上げ貢献はすごいものよ」
売り上げの噂は、研修中にも聞いた。
日高はその後も数組の接客をこなし、どのお客さんも嬉しそうに購入していた。 アイドルかと突っ込みながらもその販売力に感心しつつ、なんだかもやもやとしたものを抱える。
お昼近くになり、美琴と日高は小村にお礼を言って店を出た。
さきほどまでの日高の笑顔は接客を終えた途端に閉じられ、会社へ戻る道すがら盗み見る横顔は、怖い雰囲気すら漂う。
別にいいけど、と美琴は切り替えた。
「店長さん、やさしい方ですね」
「考えの深い人だから色々学べばいい」
頷いた美琴に、日高は思い出したように「そういえば」と付け足した。
「手持ちアイテムでのコーディネートもいいけど、セット販売も考えろよ」
青いカーディガンを合わせたときのことか。どこで見ていたのだろう。
セット販売、つまり上から下までコーディネートして売れば一気に数点売れることはわかっているけれど、美琴は引っかかった。あのお客さんは手持ちに合うものを探していた。
「でも無理に購入してもらって、あとで嫌な気持ちになって欲しくないです」
日高が眉を寄せたけれど、引けずに重ねた。お客さんの人気に乗って売り込んでいるように見えた日高の姿に反発心が沸く。
「日高さんは、お客さんが日高さんから買いたいからいいと思います。でも私はそんな存在じゃないし、強引に合わせてあとから買うんじゃなかったって思われたくないです。また来ようって思ってほしいです」
その後も長く続くような、お客さんとお店の縁を繋ぎたい。
はたと気づき、初日なのに生意気なことを言ってしまったと縮こまる。売り上げ断トツのリーダーに楯突くなんて、何も考えずに動く口が恨めしい。日高は無表情で前を向いている。
「すみません」と呟いた美琴に、日高は「いや」とだけこたえ、帰りの電車は差しさわりのない会話を探すのに苦労した。
「おかえり、美琴ちゃん」
どことなく気まずいまま社へ戻り自分の席に着くと、デスクワークを続けていたらしい森谷から名前が飛んできた。朝は苗字だったはずだ。
「え、名前呼びですか?」
「その方が親交深まるでしょ? 僕も悠真でいいよ」
「いえ、先輩ですから」
戸惑う美琴の内心なんて気にする様子もなく、森谷はにこにこしている。
「お昼まだでしょ? 一緒に行こうよ。近くのイタリアンけっこう美味しいよ」
「はい。じゃあ、日高さんも」
ちらりと隣を伺うと、日高は仏頂面ではあるけれど「そうだな」と腰をあげた。 根に持つタイプではないのかなとすこし安堵する。
森谷に案内されてイタリアンレストランは、オフィスから通りを挟んだ向かいにあった。
時間帯はランチタイムど真ん中だけど、早くから来ていた人たちと入れ替わりのタイミングになり、すこし待つだけでボックス席に座れた。
それぞれ違うパスタでランチセットを注文し、一息つく。
「どうだった? はじめての店舗まわりは。店長きれいな人でしょ」
向かいに座った森谷が、楽しそうな表情で訊いてくる。
「素敵な方ですね。お店は学生の頃から通っていたから知っているんです」
「へえ。うちで買うなんてリッチな学生だね。僕なんか安い店ばっかり通ってたな」
「仕送り生活の貧乏学生でしたよ。でもGROWの服や小物がすごく好きで、バイト代貯めてすこしずつ買ってました。お店の雰囲気も好きだし、店員さんに話しかけられないから見るだけでも入りやすかったし」
「うちはしつこい接客はNGだからな」
運ばれてきたパスタを口に運びながら、森谷の隣に座る日高が同調した。
「日高さんファンも来てた?」
ぐっとパスタが詰まりそうになる。見ていたのかと聞きたくなるタイミングだ。
「僕も関西では人気があるけど、日高さんには負けるなあ。あの笑顔は反則ですよねー」
「森谷、よけいなこと言うな」
日高はむすっとした顔でにらむけれど、森谷にはどこ吹く風だ。
「仕事だからに決まってるだろ」
さっきは咄嗟に楯突いてしまったけれど、日高は日高のやり方で、しかもお客さんも満足しているのだからなにも間違っていない。なにひとつ武器のない美琴が単に拗ねただけだ。
日高は何年目なんだろうとふと疑問が湧いた。
「日高さんはおいくつなんですか?」
「二十七」
「……へえ」
「おまえ、もっと上だと思ってただろ」
一瞬置いた間を読み取られる。
「いえ、あの、落ち着かれているのでっ」
焦るフォローに森谷が吹き出した。見た目は二十代後半だけれど、話しぶりから実は三十を超えているのかなと予測していたなんてとても言えない。
「ちなみに僕は二十四。釣り合うと思わない?」
黙り込んだ美琴に「つれないなあ」と森谷がぼやく。
「美味しかったです。ランチセットお得だし、いいお店教えてもらってありがとうございました」
セットについてきたコーヒーを飲みながら、美琴は森谷にお礼を言った。
「ほかにも美味しいお店いっぱいあるから、また一緒に行こうね」
満足げな笑顔の森谷に、悪い人ではないだろうけど、本音が読めないし、距離感が苦手だなと、美琴はちょっと戸惑いつつ頷いた。
会社に戻ると、森谷は打ち合わせの約束があると出て行った。三年目ともなれば、日高には報告するくらいで一人で動けるようになるらしい。
美琴はパソコンを開くと、さっき本店で見てきた商品検索をはじめた。実物を見たばかりなので頭に入りやすい。読み方のわからないブランド名は、書類作成をしている日高の手を止めて教えてもらう。
「大雑把に仕事のイメージは掴んだな」
返事をする美琴に向ける日高の表情は、若干不敵に見える。
「じゃあ、次は新規開拓だ」
一番恐れていた言葉に怯む。
「ノルマはないが目標期限は一カ月。服でも雑貨でも、大手に出ていない作り手を探し出してみろ」
「えっ、あの。新規開拓は二人でって言われませんでした?」
最初の説明と違い焦る。
「まずは一人で探して来い。うちで扱わせてもらえないか提案するところまでは一人だ。契約内容の提示からは一緒にいってやる」
「はい……」
勢いよく返事をしたいけれど、不安が占めて声を張れない。
「他の業務と同時進行だからな。しっかりアンテナ張り巡らせておけよ」
小村から聞いた言葉を思い出す。たくさんのお店をチェックして、いろんな人の作品に目をやる。小村のようなセンスもないのに大丈夫だろうか。
「おまえが店に並べたいと思うものを探せばいい。店のコンセプトはわかっているだろう」
そう言われると、難題の糸口がすこしだけつかめたような気になる。
自分の選んだものがお店に並べられ、お客さんへ届けられるかもしれない。
想像すると、それは嬉しい瞬間になるように思えた。
「わかりました!」
「その調子だ」
美琴が歯切れよく返すと、日高の視線が柔らかくなった。思わず目を瞠ってしまう。接客とはまた違う、こんな表情もするんだ。
「なんだよ?」
「いえっ、なんでもないです!」
怪訝な表情に戻った日高から慌てて視線を外し、パソコンに向かう振りをした。
ついでにとりあえずなにかネットから情報を得てみようと検索をかける。
「ただし、サプライヤーに妥協して受け入れてもらうことはするな。まわりに流されて決めたサプライヤーとは長続きしない。わからないことは聞けよ」
「はい」
メモを取りながら窺うと、パソコンに向かう日高の顔は元に戻っていて、すこし残念に思った。
初出勤から二週間。
小村と日高に頼み、美琴は二日に一度は本店へ顔を出していた。
掃除から検品、棚出し、電話応対……と、順に教えてもらう。
お店に出ていると商品もよく覚えられるし、お客さんの層や好みもわかりやすい。新規開拓のイメージが掴みやすくなるかと志願した。
レジは以外のことはさせてもらえるようになり、他のスタッフとも打ち解け、色々と教えてもらう。
今日は日高が社内会議に出ているため、美琴は一人で来ていた。
「これ、プレゼントにしてもらえますか?」
レジを受け持つ小村の隣に立っていると、カウンターにネックレスが差し出された。革紐に通されたトップにはターコイズが埋め込まれていて、人気のあるシリーズだ。
「北川さん、お願いね」
「はい!」
覚えたばかりの包装を早速試せることが嬉しくて、お店の雰囲気に似合わない体育会系の返事をしてしまった。ごまかすように手早く包装の包みを取り出した。
ネックレスを黒い台紙に載せ、トップがきれいに見える位置で切り込みに紐を通す。透明な袋にいれ、さらにGROWのロゴが小さく入った白い光沢のある包装紙で包んだ。それを細い金のリボンで結ぶ。
「よろしいでしょうか?」
「ありがとうございます。早いですね。わあ、かわいい!」
美琴の手元を眺めていた女性客は、できあがったプレゼントを手に嬉しそうに笑った。
「北川さん、ラッピング上手ね」
レジの波が落ち着くと、小村が感心したように言った。
「細かい作業は好きなんです。バイト先でもよくやっていたから慣れてますし。記憶力やセンスが必要なものは苦手なんですけど……」
自分がどうして仕入れ担当なのか、本気でわからなくなってくる。
悲壮な顔をしていたのだろう、珍しく小村が吹き出した。
「店長ひどいですよ。吹き出すほどですか?」
「ごめんごめん」
小村は笑いながら、「必ず買われた部分があるわよ」とフォローをくれるけど、仕入れとして自分に売り物になる部分があるとは到底思えない。
「すみませーん」
落ち込んでいると、近くの棚を見ていた男性から声がかかった。美琴は慌ててカウンターを出る。
「これって他の色はありますか?」
男性が手にしたメンズパンツの詳細は、美琴の記憶が怪しい。ざっと目をやるが、棚には黒しか見当たらない。グレーは憶えているがカモフラ柄があったような気がする。
「少しお待ちくだ……」
「お客様、失礼します。そちらは人気商品のため現在店頭には黒しかありませんが、グレーとカモフラ柄はお取り寄せできます。五日以内に入荷予定です」
調べようとした美琴の声に、いつのまに来ていたのか、日高の説明がかぶった。
「サイズは黒と一緒ですか?」
「どの色も同じです。合わせやすい色柄ですし、しっかりとした生地ですが伸縮性があるので人気がありますよ」
「カモフラってどんなのですか?」
「写真をお見せしますね。カウンターへどうぞ」
男性をカウンターへ連れてきた日高は、あっというまに売り上げに貢献した。
書かれたばかりの注文書を手に、美琴はため息をつく。
「早く覚えろよ」
怒ってはいないようだが、美琴は首をすくめた。
交代での休憩中、事務所で商品の案内がされているホームページを確認した。
吉岡たちが更新してくれている最新情報に、新しいシリーズが加わっている。
「わあ、かわいい」
近々、シフォン素材のスカートや、ふんわりとしたかわいいデザインのカットソーがお目見えするらしい。
サイズ展開は未定と書かれていたため、確定したら覚えようとポケットに忍ばせたメモ帳を取り出す。日々の業務でメモはすぐにいっぱいになり、もう二冊目だ。
「包装お願いします」
レジから日高の声がかかり、美琴は慌てて事務室を出た。
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