鬱病編 大学生の私
大学に入学して、私は高校三年間続けたファミリーレストランのアルバイトを辞めた。新しい環境に慣れるまで、学校に専念しようと思ったのだ。それから約半年間は、母からの返済のお金で過ごしていた。もう一つバイトを辞めた理由がある。高校を卒業したら時給のいいバイト、キャバクラやガールズバーなどで働こうと考えていたのだ。五月頃にキャバクラの体験入店に行ったが、すぐに無理だと思い直した。今思えば、無理なのはキャバクラではなく、新しく慣れない職場だったのだろう。ずっと同じ職場にいたせいか、新しい職場が怖くなっていた。結局、他に面接を受けた居酒屋も一日で辞め、十月頃に元いたファミリーレストランに戻ることになる。
大学では四人グループで行動していた。明るく楽しい、それでいて派手過ぎないグループで、居心地が良かった。それでも、新しい環境は私にストレスを与えていたらしい。食に興味がなくなって、食べることを面倒くさがるようになった。昼食をとる時の口癖は、「噛むのが面倒くさい。」だった。結果、高校の時と比べて体重は5キロほど減った。私は実は気遣い屋だったりする。人の顔色をうかがう癖があって、常に気をまわす。慣れ親しんでいない相手だと尚更だ。かといって、それが病的というわけでもない。ちなみに、人見知りは中学で克服した。あまり喋らない子と一緒に過ごす機会があって、「あ、これ私が喋らなきゃダメなやつだ。」と思ったらあっさり治った。大学では、軽く気を張る毎日と、慣れない片道一時間半の電車通学に、少し疲れてしまったのかもしれない。
それが当たり前になると怖いものだ。「それ」とは、リストカットのことである。中学二年生の頃から続けていたそれは、嫌なことがあると当たり前にするものになっていた。大学に入学してからも、それは変わらなかった。頻度は少ないものの、跡は残る。トイレで手を洗っている時、一緒にいた友達が手首の絆創膏に気づいた。
「手、どうしたの?」
言われて、まくった袖をパッと戻した。
「あ、ちょっと猫にひっかかれて。」
「大丈夫?なんかあったら言ってね。」
うまくごまかせたなんて思っていない。完全にバレた。しかし、臨床心理学を学んでいるだけあって、彼女は無理に探ってくることはしなかった。もっとうまく隠さなければ、そう思った。しかし、事態は大きく変わっていく。
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