鬱病編 高校生の私
高校生になった。新しい友達ができた。特別仲良くなったのは二人。類は友を呼ぶ、とはよく言ったものだ。似た者同士、気を使うことなく一緒にいられる、そんな存在。今でも定期的に集まるこの二人は、きっと一生の友達。中学三年生に上がってから、自傷行為はしなくなっていた。しかし傷は残っているわけで。
「え、これもしかしてリスカ跡?」
そう聞いたのは、高校で仲良くなったこの一人だった。
ーーちゃんと隠してなかった私も悪いけど、仲良くなって一ヶ月でそこ突っ込んでくるお前もなかなかだな。
と思ったのは内緒にしておく。笑って誤魔化した。私は普通の女子高生として毎日を楽しんだ。勉強にオシャレ、遊びに恋。なかなかに楽しい毎日が続いていた。そんな私を苦しめたのは、母のパチンコ依存者だった。
高校生になって、私はファミリーレストランでアルバイトを始めた。週四日、学校終わりの四時間と、休みの日のロングタイム。最初こそ慣れずに失敗ばかりで、毎日やめたいと思っていたが、慣れていくとそんな気持ちも減っていった。いつからだっただろうか、母が無断で子供達のお金でパチンコをするようになったのは。身内とはいえ、立派な窃盗行為だった。問題はそれだけではない。私や姉は、そのことを父に言えない理由があった。「次にパチンコをしたら離婚する」父と母の間にはそんな約束があった。実際、小学生の頃に「離婚する」と両親が喧嘩していたことがある。その時は一個上の姉と二人、泣いて止めたものだ。どんな親だろうと、離婚はして欲しくない。離れるのは嫌なのだ。二度とパチンコには行かないと、お金を盗らないと、嘘はつかないと、何度母と約束しただろう。高校二年生の夏休み、頑張って働いて稼いだ八万円は、パチンコ台に吸い込まれた。馬鹿みたいだ。私は、母のパチンコ代を稼ぐために働いていたのではない。それを皮切りに、私自身も歪んでいく。
母のパチンコが原因で、生活費が足りなくなった。そんなこと父には言えない。そして、兄も頼れなかった。兄はそれを知れば、容赦なく父に報告するだろう。私に逃げ道はなかった。母は生活費が足りなくなるたび、私にお金を借りにきた。確か当時は、兄は社会人になりたて、五個上の姉は無職で、一個上の姉は部活に励んでいてバイトはしていなかった。だからって、なぜ私が全て背負わなければいけないのか。
「お金貸してくれない?」
弱った声で、泣きそうな顔でそう言う母に、私は優しくできなくなっていた。それでも嫌だとは言えなかった。自分の生活費でもあるのだから、拒否できるわけがない。お金の話を母が切り出すと、私は決まって不機嫌になった。そしてそんな自分を、私はどんどん嫌いになっていった。母にお金を盗られないように、私はどこにいく時でも通帳とキャッシュカードを持ち歩いていた。その結果、学校にいる時や友達と遊んでいる時にも電話がかかってきて、キャッシュカードを取りに来る、と言う事態が起こった。それを目の当たりにした私の友達は、若干引いていた。
「まひろのお母さんやばくない?」
そう言われた時、恥ずかしかったのか、母を侮辱されたことに怒ったのか、よくわからない感情が押し寄せた。庇わなきゃいけない、でも庇いたくない。そんな葛藤があったのかもしれない。この状況を知って普通の人がどう思うかは知らないが、少なくとも当時の私はこう思っていた。母だって辛いのだ、自分の生活費でもあるのに、なにをこんなに不機嫌になって、私はどれだけ心が狭いのだ、と。嫌いだった自分を、もっと嫌いになった。お金を貸すたび心が痛くて、不機嫌を装って涙をこらえたこともあった。私の心は、再び壊れた。
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