鬱病編 家族と私
話は少し変わって、私の家庭には色々事情がある。早い話、母はパチンコ依存症で鬱病も患っている。私が小学生の頃、母ひ精神科に何度か入院していた。原因はわからないが、居間で泣きながら暴れる母を、姉と一緒になだめたことがある。夜遅くまで帰ってこなくて、連絡も取れなくなった母を、警察に探してもらったこともある。一個上の姉が、洗面所でカミソリを持ちながらぼうっと立っている母を見つけて止めたこともある。 母は脆く壊れやすかった。熱くなると声を荒げて泣いて、手がつけられない。私が小学生だったあの頃に比べて今はだいぶ落ち着いたが、その対処法なんてわからかいままだ。父は、母の看病で心を病んでいった。そして父も鬱病になる。父は強かった。いや、子供に弱さを見せなかった、というのが正しいかもしれない。後から聞いた話だが、当時の父は仕事ができないほど追い詰められていた。会社でトイレに籠ってしまうこともあったらしい。それが原因だったかは知らないが、父はリストラされた。知り合いと起業すると言って働き始めたが、上手くいかず起業は失敗。借金を背負って自己破産したのは、私が中学三年生になった頃だ。幸い新しい仕事は父が人脈を駆使してすぐに見つけたが、収入は前の会社の半分ほどになってしまう。自己破産したことで持ち家を手放し、3LDKの賃貸マンションに引っ越した。それが中学三年生の夏休みのこと。通っていた中学の学区外になってしまったが、この時期転校するのも嫌なので、毎朝友達の家まで自転車で行き、自転車を置かせてもらってそこから歩いて登校していた。
ーー受験で大事な時期なのに、なんでこんなことに……
そう思っていた。それでもまだ幸せだったんだ。私の人生は、これからもっと壊れていくのだから。
私のリストカットのことを、唯一知っていた友人がいる。彼女の家に泊まった時、私は彼女に聞いてみた。
「ねぇ、自傷行為ってしたことある?」
「あるよ。」
あるんかい!と思うかもしれないが、彼女の家も少し複雑で、彼女もまた自分を守るためにそうしたんだろう。私は驚かなかった。ただ、ひどく安心した覚えがある。私だけじゃない、と。
「死にたいって、思ったことは?」
「あるよ。」
「一緒だ。」
私は、左手首にうっすら残った傷跡に触れながら、静かに涙をこぼした。こんな話をできるのは、彼女だけだ。だって知ったら、みんな心配する。だから私は笑うしかなくなる。死にたいほど辛かった経験を、冗談めかして笑いながら話すのだ。辛いね、苦しいね、そんなこともあるよねって、心からの呆れ笑いを込めて話せるのは、彼女だけなのだ。本当の自分がわからない。そんな悩みを抱えていた。家族といる時、私は無口でおとなしい。友達といる時、私はしっかり者でツッコミ役。じゃあ、どちらが本当の私なんだろう。私はどちらも違うと思った。なんでも言える、ちょっとしたことでふざけ合い、笑い合える。彼女といる時の私が、どの私より本当の私だと思えた。そんな彼女もは、高校が別になったことで疎遠になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます