鬱病編 中学生の私

中学生になった。絵を描くことが好きだった私は、美術部に入ろうか、体力をつけるために運動部に入ろうか悩んでいた。すると友達にこう言われた。

「美術部に入ったらいじめられるよ。」

そんなわけあるか。と、今では思うが、私は結局バスケ部に入部した。このバスケ部のメンバーが、またややこしいことをするのである。簡単に言えば、仲間はずれだ。彼女たちにも言い分はあり、きっかけは様々。こんなことがあってムカついたから無視をする。しかしそれは、私には関係のないことだった。私は誰も無視をしなかった。そして誰にも無視をされなかった。不思議な話である。私達一年生が完全に分裂し、対立していたことがある。そこで間に入ったのが二年生の先輩だった。お互いに誰のどこが気に入らないのか、腹を割って話そう。そうなった時に、私の名前だけが上がらなかった。私は人と接する時、ある程度の距離を保つ。相手の反応をうかがいつつ、上手いこと話を進めるのが得意だった。結果、誰を怒らせることも、イラつかせることもなかったのだろう。安心した。そしてふと思った。彼女たちは私のことが嫌いじゃない、けれど同時に、私のことが好きでもないのだと。誰からも嫌われないことは、誰からも好かれないことと同義なのではないか。すなわち私は、空気だったのだ。そうか、どうりで生きるのが上手いわけだ。


変化は二年生になってから現れた。夏に先輩たちが引退して、私たちの代になった。しかし、部長がなかなか決まらない。顧問の教師が決めあぐねているのだ。週替わりで全員部長をやる日々が続いて、ようやく部長が決まった。私である。言われた時は、でしょうね、と思った。私たちの代に、部長に相応しい人はいなかった。本当にどうしても決めろというのなら、強いて言うなら私かなぁ、というレベルだ。しかし、誰よりもミスや間違いを嫌う私に、部長の荷は重すぎた。


生きていく上で、うまく手を抜くことは大事だと思う。私はしっかりしているように見えてサボり上手だった。優等生に見られていても、授業中に携帯をいじったりする不真面目なところもあった。私が部長になったことで、バスケ部は一気に緩くなった。外周はサボる、ストレッチはふざける、顧問がいない時はやりたい放題。部長としてみんなを縛れば、嫌われるリスクがある。自分が上手くだらける姿を見せれば場は和むし、「部長だから偉そうだ。」と思われることもない。今思えばそんな臆病な理由で、私はサボることを選択していた。親しみやすい私になるために。


そんな夏休みの練習中、顧問がブチ切れた。もちろん、顧問がいたので私は真面目にやっていたが、どうやら気の抜けたメンバーがいたらしい。顧問は椅子を蹴り上げてこう叫んだ。

「やる気ねぇならやめちまえ!」

そして職員室に籠ったのである。先輩たちの代でもこんなことがあった。

ーーあの時は、全員で謝りに行ったんだっけか。仕方ない。今回もそうしよう。

とりあえず水筒をがぶ飲みした。正直、イライラしていた。顧問はキレる前に、「ちゃんとやれ。」と怒っていた。なぜその時点で、全力でやることを選択しないのか。誰だかわからないがいい迷惑だ。その時、呟いた人間がいた。

「もうよくない?やめろって言ってんだから帰っちゃおうよ。」

「てか私帰るわー。」

言ったのは同級生だった。言いながらカバンに水筒を詰め込む。

ーー待て待て待て。後輩もいるのになんだそれ。てか責任とるの私……。

帰る支度をする同級生と、オロオロする後輩。

ーーあぁ、もう。めんどくさ。

気づいたら、持っていた水筒を床に投げていた。イライラが募って、爆発した。

「いいよ、帰りたい人は帰って、やる気ない人いても邪魔だから。残った人で謝りに行くよ。」

シンーー……、と静まり返る体育館。結局、帰った人はおらず、練習も無事再開できた。けれど、私はずっとモヤモヤしていた。

ーー少し言い過ぎたかもしれない。水筒投げたのはやり過ぎ?物に当たるってよくないよね。

そんな後悔が頭の中を駆け巡った。不安が胸を支配した瞬間だった。


失敗が怖い。怒られることと同様に。練習試合で他校に遠征に行った時だった。私は、降りる駅を間違えた。私を信じて降りた人と、ここじゃないと言って乗ったままの人がいた。結果、間違っていたのは私だった。汗が吹き出る。一気に鼓動が速くなった。

ーーやばい。間違えた。どうしよう。

軽いパニック状態である。胸が苦しかった。幸い試合には遅れることなく到着できたが、迷惑をかけたのは事実で、時を戻したいと本気で思った。失敗して怒られるのが怖いのではなく、失敗そのものが怖いのである。また、各部の部長が集まる部長会に出席しなかったことも失敗の一つだ。夏休みが終わってすぐのことだった。担任教師から放課後だと聞いていた部長会は、昼休みにすでに行われていた。部長会担当の教師に謝りに行くと、頭ごなしに怒られた。理由を言おうとすると、「言い訳をするな!」とさらに怒られた。実際のところ、間違えたのが私か担任教師かは覚えていない。しかし、当時は確実に担任教師の伝言ミスだと思っていたため、理不尽に怒られている気がしてならなかった。そんなことが続いて、ストレスがたまっていたのかもしれない。

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