第2話
「まさか、こんな仕事だなんて……」
憂鬱なため息を漏らしながら、四角く区切られた場所の中で、クラウディアはタイマーをセットした。今日で何人目だろうか。そしてこの町はよっぽどコレが好きらしい。しかも今回の相手は女性ときた。
男相手よりはまだマシか。
相手をする女性はすこしはなれた場所で立ったまま、いつでも飛び込めるように荒い鼻息を立てて、クラウディアを睨んでいる。今日こそは、今日こそは……と、ぶつぶつつぶやいていて、そこは少々怖さもあった。
「はい、こっちはいつでもいいわよ」
「早く始めなさいっ」
「はいはい」
かたやもう一方の場所では──
「んしょ、んしょ」
ニジミがまったく同じ形で区切られた四角いエリアの中で、柔軟運動をしていた。ニジミの相手は大柄の男。はじめはメリカも心配して断ろうとしたが、ニジミがOKを出したので、こうして向かい合っている。
「こっちもいいよー」
ニジミは、はなれた場所にいるメリカに声をかける。
「それじゃあいくわよー!」
メリカが合図を出すと、彼女たちを囲んで見上げる群衆が声を上げた。
そして、
カァァァァン!
試合開始のゴングが鳴った。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!」
バンバンバンバンバンっ!
関節技を極められて、挑戦者の女はあっさりとリングのマットを叩く──。
「……もうちょっとくらいがんばりなさいよ」
クラウディアは多少の弾力があるマットの上で、つまらなそうに技を解いた。
「ぐふおぇっ!」
ニジミの繰り出したドロップキックでコーナーマットまで吹っ飛ばされ、大男はそのまま動かなくなった。
「あれれ……」
ニジミは三本のロープで囲まれた四角いリングの上で、バツのわるそうな顔をした。
どちらもほんの数秒間の出来事だった。
メリカの経営するレストラン『プロレスディッシュ』の地下一階では、毎日挑戦者を募って、夕方の素人プロレスが催されていた。
クラウディアとニジミがリングに立ってたった二日。
町全体にはこんなウワサが流れはじめる。
──プロレスディッシュのリングの上には、大小の鬼が二匹、棲んでいる──
当の鬼たちの耳に、この噂はまだ届いていない。
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