第4章 この胸に芽生えたものは
第1話 早くしないと
今日の昼はオレ、レティシア、ウィリアムの順に並んで飯を済ませた。
割合は少ないながらも貴族も通う学校だからか、ここの食堂のレベルはかなり高い。
レティシアも貴族のお姫様だけど、いつも美味しく食べてるみたいだ。
そうこうして昼休みが終わると、一年と三年の合同授業の為に講堂に集まる事になった。
クラス別に並んで着席する。座る順番は自由だったから、オレはすぐにレティシアの隣をゲットした。
またしてももう片側はウィリアムが確保していたけど、レティシアが座った位置がはじっこの席じゃなくて良かった。じゃないと一人しか隣に座れなくなるからな。
レティシアの近くに居ると良い匂いがするから、何か落ち着く。オレの鼻が良いから余計にそう思うのかもしれない。
昼休みが終わる頃には、講堂に全ての一、三年生クラスの生徒が集合した。
この中のどこかにケント先輩とウォルグ先輩が居るんだろうけど、人が多くてよく分からなかった。
「なあなあ、これってオレ達何の為に集められてるんだ?」
隣のレティシアにそう訊ねると、すぐに彼女は答えてくれた。
「先週ケントさんが仰っていたパートナーの件ですわ。それに、朝の会でもアレク先生が連絡していたはずですけれど……」
「連絡事項ぐらいちゃんと聞いとけよ、リアン。そんなんでまともに進級出来んのかぁ?」
「うるさいなぁ! ウィルなんかにとやかく言われたくないっつの!」
「リアンさん、あまり大きな声を出さないで。アレク先生がじっとこちらに目を向けていますわよ」
彼女に言われて、ふと前の方に顔を向ける。
何人か前に並んだ先生達の中で、真っ直ぐにオレだけを見つめる視線──物凄い迫力でガン見してくるアレク先生を見て、オレはビビった。
身体が凍ったように、姿勢良く背筋を伸ばしてしまう。
「ご、ごめん。静かにするよ」
「それが一番ですわね」
ぎゅっと唇を結んで黙ると、ウィリアムに鼻で笑われた。この授業が終わったら覚えとけよ。
授業開始の鐘が鳴り、アレク先生の隣に居た男の先生が一歩前に出た。
爽やかな水色の髪のその人は、別の学年の授業をやっている先生なんだろうか。見覚えが無いなぁ。
「皆さんこんにちは。一年生の皆さんとは初めましての方が多いですね。俺は高学年の魔物科目を担当している、ヘンリー・ジョーンズと申します。今回皆さんにお集まり頂いたのは、来週から始まるチーム制魔物討伐授業にあたっての説明と、パートナー申請についてのお話が目的です」
レティシアが言ってた通りだ。
ヘンリー先生はアレク先生とは正反対で、優しそうな印象の人だなと感じる。
「ここに並んだ先生方は、俺と同じ魔物科目を教えるアレク先生を始め、魔法・武術・回復という主要四科目を担当なさっている先生方です。このセイガフでは、将来ギルドや騎士団に所属する人材を多く排出する特色があるのはご存知ですよね? ギルドでも騎士団でも、勿論それ以外の職に就いたとしても、魔物から被害を被るのは避けられない事でしょう。そんな時、様々な魔物に対処出来る者を育成すべく誕生したのがこの学校です」
うんうん、うちのオヤジも同じ事言ってたなぁ。
だからオレもここに入学したワケだし、知ってて当たり前だよな。
「設立当初から現在まで続いている、魔物討伐の授業。二年生からは選択科目にもなっている授業なのですが、選択授業の方では同学年で少数の班を組んで行動するのに対し、今回説明するチーム制討伐授業では上級生と下級生がタッグを組み、討伐する魔物に応じたチームを編成する決まりがあります。討伐難易度によって様々な二人組を集め、大規模なチームを編成して強大な魔物を討つ経験を得る事。そして、魔物に日常生活を脅かされている地域の人々の役に立つ事。この二つが、この授業で到達すべき最終目標となっています」
一年生は三年生と組んで、先輩が卒業したら今度はオレ達が新しい一年生とチームを組む。
先輩から学んだ事を後輩に伝えて、学校での四年間で得た経験を未来に活かす。
オレのオヤジもそうやってここを卒業して、ギルドに所属して魔物と戦ってたんだ。今でもオヤジは強いけど、きっと学生時代から頑張ってたからそうなったんだろうな。
オレも、そんな風になりたい。
「可能であれば五時限目のこの時間内に、パートナーを決めて下さい。相手は先輩・後輩の関係であれば、誰を選んでも構いません。ただし、チームの掛け持ちは出来ませんよ? 誰と組むか決めた生徒は、パートナー申請の用紙を俺から受け取って下さい。二人のサインを記入し、誰でも良いので先生に提出して下さい。今すぐに決められないという人は、今週末までに提出するようお願いしますね」
ヘンリー先生の話が終わると、みんな席を立ち上がってパートナー探しが始まった。
どうしよう。誰に組んでもらえば良いんだろう。
相談しようと思って隣を見ると、レティシアは姿を消していた。そういえばウォルグ先輩からパートナーの誘いがあったもんな。
じゃあウィルは……。
「お、居た居た! おーいケントー! 俺とパートナー組んでくれー!」
大きく手を振りながら、人混みの中を抜けてきたケント先輩にウィルが叫んだ。
「僕をご指名かい? 理由を聞かせてもらっても良いかな」
何とかこっちにやって来た先輩は、ウィルに笑いかけながらそう言った。
「知ってる三年で一番魔法が強そうだったからだな」
「随分シンプルな理由だね。そういう君は、どこが強みなのかな?」
「魔力のコントロールはかなり良いぜ。燃費も良い方だ。自分で言うのも何だが、こんなんでも一応特待生として入学しててな。実力はあるんだぜ?」
「ええぇー!? お前が特待生って、そんなの初めて聞いたぞ!」
「あれ、言ってなかったっけか? まあ、うん。そういうこった」
「どういうこったよ!?」
ウィルが特待生って、オレはこいつに酷い目にあわされたってのに……!
世の中って、理不尽だなぁ……。
「……ふむ。それだけ優秀だというのなら、パートナーのお誘いを受けても良いかもしれないね」
「俺を評価した理由はそれだけか?」
特待生だと言われてもリアクションが薄いケント先輩。
もしかしたら先輩も特待生入学だったりするのかな? だからそんなに驚いてないのかも。
「……僕の戦闘スタイルを補う、良いパートナーになりそうだと思ったんだ。君は確か魔法銃の使い手なんだろう? 良い身体をしているから、体術も得意そうに見える。接近戦でも問題無く戦える人を選ぼうと思っていたから、もし僕の見立て通りなら理想的な相手かもしれないからね」
「アンタの言う通りだ。互いに理想のパートナーになれそうだな」
「ふふっ、そうだね。それじゃあ早速ヘンリー先生から用紙を受け取ってこようか。こんなにすぐ良い相手に声を掛けられるとは思わなかったよ」
オレの目の前でトントン拍子で話が進み、二人は行ってしまった。
どうしよう。知ってる三年生の二人は、それぞれオレの友達のパートナーになってしまった。
うーん……見付かるかなぁ、オレのパートナー……。
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