コラム:日本の軍艦に人名が存在しないわけ

 世界の軍艦の名前をみてみると、戦艦「クイーン・エリザベス」(英・女王)、空母「ジョン・F・ケネディ」(米大統領)、巡洋艦「ジャンヌ・ダルク」(仏・救国の聖女)、ミサイル駆逐艦「アーレイ・バーク」(米・海軍提督)等、偉人や軍人の名前を採用した軍艦の名前には事欠かきません。アメリカ海軍に至っては、軍艦の艦名の大半が人名です。しかしながら、日本においては人名を採用した軍艦というのは、旧帝国海軍、海上自衛隊のどちらでも一切存在していません。


 この理由は明治時代までさかのぼります。

 当時の日本軍は天皇陛下の軍隊であり、その保有する兵器もまた、天皇陛下から賜ったものである、という考えがありました。そのため、軍艦の艦名を命名するためにはには天皇の勅決が必要でした。つまりは、天皇の同意なしでは軍艦の名前を付けられなかったのです。


 明治の時代になって、日本海軍は艦種別に命名の基準を定めることとし、命名基準の草案を明治天皇に提出しました。この際に、明治天皇から「日本の軍艦の名前に人名は相応しくないのではないか」との下問があり、この結果として日本の軍艦には人名が使われないこととなったのです。


 何故、明治天皇が軍艦に人名を付けることを良しとしなかったのかの理由については、もしも人名を付けた軍艦が沈んでしまったら、名前の由来となった人物に対して失礼になり、それを嫌ったのではないかという説が挙げられています。


 以来、大日本帝国海軍から海上自衛隊に至るまで、人名を由来とする日本の軍艦は一隻たりとて存在していません。しかし、2020年に就役する予定のアメリカ海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の68番艦は、元アメリカ陸軍大尉でアメリカ上院仮議長を務めた日系人のダニエル・イノウエ氏の名前を冠することが決まっており、おそらくこれが軍艦に使われたはじめての日本人の名前となるでしょう。


 ちなみに、海上自衛隊の保有する艦船の中には一隻だけ、遠回しながら人名を由来に持つ船が一隻だけ存在します。南極観測船「しらせ」です。

 南極観測船を新造するにあたって、海上自衛隊ではこの船名を公募しました、そうして集まった候補のひとつが、日本陸軍軍人であり南極探検家の白瀬矗中尉の名前にちなんだ「しらせ」で、最終的には艦名を「しらせ」とすることに決まりましたした。しかしながら、海上自衛隊は旧海軍に倣って艦名には人名を使用しないことに加えて、砕氷艦の名前は「名所旧跡のうち主として山の名」と定められていたため、苦肉の策として命名規則を「名所旧跡のうち主として山又は氷河の名」に改正し、南極にある白瀬中尉の功績を称えて命名された白瀬氷河を由来として、命名が行われました。

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