第64話 彼女のもとへ (アルフォンス視点)
モニカは自分の首を掴むアルフォンスを凝視し、震えで歯をカチカチと鳴らしながら告げる。
「アルフォンス様……私には何のことかさっぱり……」
「そう。役に立たないならここで終わってくれ」
アルフォンスはモニカの喉を圧迫する指に徐々に力を込めていく。こうしている間にもルイーゼに危害が加えられるのではないかと思うと、怒りのあまりにこのままモニカを絞め殺してしまいそうになる。
「かはっ……! お、お待ちください! おっ、思い出しました。彼女は私の仮住まいに招待しました……」
「へえ、それでルイーゼに何をするつもりなのかな? 傷一つでも付けたら……分かってるよね?」
「はっ、はい……。ま、まだ大丈夫だと思います。場所は……」
モニカによるとルイーゼが連れ去られたのは王都の一角にあるアパートの一室だった。モニカが学園に通うために借りているらしい。ルイーゼを連れ去ったのは裏家業を生業とする
ルイーゼの意識が戻ってから辱めたほうが苦痛を与えられるだろうと考えたため、薬が効いて意識を失っている間には手を出さないよう言っておいたそうだ。だが側にいるのは破落戸だ。やつらが指示を守る保証はどこにもない。
モニカの両腕を背中側で拘束し、そのまま無理矢理学舎入口まで引っ張っていく。するとオスカーが馬車の側に一人の男を寝かせ、その傍らに屈みこんでいた。身なりから推測すると恐らく侯爵家の御者だろう。未だ意識を失っているその男をオスカーが介抱している。
「オスカー、その男は?」
「我が家の御者です。ここから十五メートルほど離れた所の茂みの陰に後ろ手に縛られて放置されていました。どうやら薬を嗅がされているようで意識が戻らないのです」
「そうか……。それで何か痕跡は?」
「今のところは何も……ただ学園の正門の詰め所で聞けば何か分かるかもしれません」
「いや、必要なことはこの女から聞いたから今はいい」
「モニカ嬢……やはり君が……!」
オスカーが腹立たし気に顔を歪めモニカを睨む。だが今は一刻も早くルイーゼの救出に向かいたい。アルフォンスはオスカーに、モニカに聞いた住所と指示を伝えた。
「オスカー、すぐに騎士団を……いや、ローレンツとニーナ嬢を探し出して、一緒に目的の場所へ向ってくれ。状況が状況だ。通報はまだするな。可能な限り内々に処理する」
「殿下、それは……承知しました」
アルフォンスの指示を受けてオスカーの表情が曇る。だがすぐに本意を察してくれたようで、ローレンツたちを探しにこの場を離れた。アルフォンスはというと侯爵家の馬車に拘束したモニカを放り込んで、一足先に目的の場所へ向かうことにした。
先ほどはすぐにでも騎士団に援軍を頼もうかと思った。だが貴族令嬢が一時的にとはいえ男たちに拉致されたとなると、一生纏わりつく醜聞になりかねない。結果何もなかったとしても、事件が明るみに出れば、令嬢が拉致されたという事実だけで愚かな貴族たちは憶測で面白おかしく噂を撒き散らすのだ。女性の醜聞は自分のそれとは比較にならないほどにルイーゼの将来に影を落とすだろう。
そう考えるに至り、モニカの口を塞いだ上で、内々に救出して事件をなかったことにしたほうがいいと判断した。先週、街でルイーゼたちが襲われた事件のことは予めオスカーに聞いていた。そこでローレンツとニーナならば戦力的にも問題はないし、ルイーゼに近しい二人なら口を噤んでくれるだろうと考えたのだ。破落戸とモニカは許せないが、やつらの罪状はあとでどうにでもなる。
御者席に座り、目的の場所へ向けて馬を走らせながら考える。ルイーゼにアルフォンスと同じ恐怖を味合わせたくはない。一刻も早く助けたい。ルイーゼの無事な姿が見たい。だが……。
「もしルイーゼに何かあったら絶対に許さない……」
アルフォンスは御者席で馬に鞭を振るいながら殺気も顕わに呟いた。
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