第43話 可憐な少女ニーナ
金曜日の放課後、ようやく楽しい製菓クラブの時間となった。お昼休みにいろいろあって、結局アルフォンスはなぜわざわざ来たんだろうなどといろいろ考えたりもしたが、分からないことをうだうだ考えても仕方がないので頭を切り替えることにした。
皆が集まる前にカミラが近づいてきてルイーゼを哀れむような眼差しで見る。なぜか最近そんな目で見られることが多い気がする。そしてカミラはゆっくりと告げた。
「ルイーゼ、昨日の貴女のことが学園で噂になってるわ」
「へっ?」
「正確にいうと、貴女のことだとはまだ判明していないわね。あの謎の美少女は誰だ、的な?」
「謎の美少女……誰?」
カミラの予想外の言葉の数々に驚きと混乱を隠しきれない。噂? 美少女? 意味が分からない。そしてそんなルイーゼにカミラが肩を竦めて、溜息を吐きつつ苦笑して答える。
「本当に無自覚なのね。貴女のことよ。皆がじろじろ見てたのはスモックで学舎内を歩いていたからでも、貧相だからでもないわ。貴女の素顔は可愛らしくて目立つのよ。ちなみにあの妖精のような少女は誰なのかって朝教室で質問攻めにあったわ」
「そ、そうなの。ごめんなさい。それでなんて答えたの?」
「体が弱くて滅多に学校に来ない子だって。人見知りが激しいから誰かは教えられないって答えたわ」
「そう……。お手数をおかけしました」
「ふふっ、いいのよ。なんだかわくわくするし」
悪戯っぽく微笑むカミラに感謝の気持ちでいっぱいになる。彼女の力添えがなければ昨日の危機も乗り越えられなかった。
それにしても自分が他人からそんな評価を受けているとは知らなかった。縦ロールと化粧がなくなっただけでそんなに変わるものなのだろうか。うん、変わるか。中身なんてつきあってみなければ分からないものだし、アルフォンスに一目ぼれしたルイーゼだって、外見が、あまり知らない他人を判断する上での重要な要素の一つだということは分かる。
そんなことより今はお菓子作りだ。ようやく製菓班の皆が揃ったようだ。今日は何を作るのかなとワクワクしながらカミラの言葉を待つ。するとカミラが皆に向けて声をかけた。
「今日の課題はどうしようかしらね。昨日はリタに提案してもらったけれど、他に誰かいるかしら?」
カミラの声かけに後ろのほうから恐る恐る手を挙げる少女がいた。か細い声で名乗りを上げるが小さすぎて最初はよく聞こえなかった。
「はい……」
「あら、ニーナ。どうぞ」
ニーナ・フェルステル。フェルステル子爵家の令嬢だ。ルイーゼと同じ十六才で、とても控えめでおしとやかな令嬢だ。背中ほどの栗色の髪は綺麗に編み込まれてハーフアップにされており、同色の瞳はくりっと丸くて大きい。体は全体的に小柄で華奢に見える。ちゃんと食べているのか心配になるほどだ。全体的にリスのような可愛らしい印象だとルイーゼは思っている。
「あの……私はふわふわのお菓子が食べてみたいです。それでいて今まで見たことがないような……」
ニーナがそう言った直後、皆の視線がルイーゼに集まる。その期待に満ちた視線を受け、『ああ、やっぱりそう来るよね』などと思いながらも課題について考える。
ふわふわのお菓子で最初に思いつくのはシフォンケーキだが、あれは生クリームを添えたほうが美味しいと思うし、似たようなお菓子がありそうだ。マシュマロはゼラチンがないと作れない。頭の中に次々に浮かぶふわふわお菓子の中からルイーゼが選んだのは……
「シュークリームはどうかしら?」
「「「シュークリーム?」」」
皆の期待値が一斉に高まる。恐らくこの世界にはまだないお菓子だ。作ってみる価値はある。ルイーゼは前世で大好きだったシュークリームを思い出してワクワクした。
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