第44話 シュークリーム
金曜日の放課後、製菓クラブでの今日の課題についてルイーゼが提案する。
「シュークリームはどうかしら?」
「「「シュークリーム?」」」
シュークリームはこの世界ではまだ見たことのないお菓子だ。シュークリームなら皆も気に入ってくれるのではないかと思う。ただ懸念があるとすれば、難易度がかなり高いことだ。難易度が高いだけにシュー皮が上手く膨らんだ時の達成感はひとしおだ。
まず、素材は全て計量して常温に戻しておかなくてはいけない。とはいえ、この世界では冷蔵庫がないのでその点は心配ない。小麦粉もあらかじめふるっておく。そしてまずはシュー生地作りからだ。
「お鍋に牛乳、バター、砂糖を入れて、強めの火にかけましょう」
ポイントは水分を飛ばし過ぎないこと、これに尽きる。だから全ての工程を手早くやらなければならない。お鍋の中心まで沸騰したらすぐに火を止めてふるっておいた小麦粉を一度に加え、ヘラで混ぜる。
「生地がひと塊になったら強めの火にもう一度かけて、鍋肌に小麦粉の幕ができるまで熱を加えるのよ」
生地をきちんと糊状にするのが目的だ。膜ができたらすぐに火を止める。そして生地をボウルに移し、あらかじめ溶いておいた卵をまず少しだけ入れる。固まっている生地を切るようにしながら、再びひと塊になるまで混ぜる。混ぜたあと数回に分けて残りの卵を入れ、都度しっかりと混ぜ合わせなければいけない。
さて、ここで問題だ。この世界には絞り袋というものがないので生地を絞り出すことができない。蝋引き紙が代わりになりそうだが熱に弱いので、熱い生地を絞るのには向いていない。初挑戦にはなるが、スプーンを使ってみようと思う。
「出来上がった生地をスプーンを使って天板に並べていきましょう。かなり膨らむので間はあけてね」
スプーンでやる場合は間に余計な空洞を入れないように形をある程度整えなければいけない。もし歪になった場合はお湯で濡らした指で表面をならす。生地を冷やしてしまっては失敗してしまうので、この工程も手早く済ませる。
シュー生地をオーブンに入れたらカスタードクリーム作りに取りかかる。ルイーゼはバニラの香りのきいたカスタードクリームが好きなので、牛乳に砂糖を入れてあらかじめ加熱するときに、鞘を開いてしごき出したバニラの粒と開いた鞘を牛乳に入れる。香りが出たら火を止める。
そしてちょっと勿体ないのだけれど、卵の卵黄だけを分けて取り出して置く。冷ました牛乳を小麦粉に混ぜてから卵黄を入れ、だまがなくなるまで混ぜるのだ。そして全体がしっかり混ざったら鍋に入れて強めの火にかける。すぐに焦げ付いてしまうので常に混ぜ続ける。
「鍋肌からクリームがはがれるようになってポコポコ泡が出てくるようになったら火を止める合図よ」
カスタードクリームがいい感じに仕上がった。ルイーゼは出来上がったばかりのクリームをいつもつまみ食いしたくなるのだがぐっと堪える。本当はカスタードクリームに生クリームを混ぜたいところだけど、ないので仕方がない。そしてカスタードクリームを作っている間にシュー皮が焼き上がった。
「焼き上がったシュー皮はすぐにはオーブンから取り出さないで放置ね。急に冷ますと萎んでしまうのよ」
すぐにオーブンから取り出さないという注意点は、スフレ系の空気を多く含んだお菓子にも言える。急な温度変化は折角膨らんだ生地を萎ませてしまうのだ。あまり余計に熱を通したくないときは、オーブンの扉を少しだけ開けるなどして調整するといい。空気を多く含んだお菓子は急に温度を下げないのが鉄則だ。
オーブンから取り出したシュー皮は無事に膨らんでいた。大成功だ。ルイーゼはほっと胸を撫で下ろす。無事に膨れたシュー皮を、クリームを入れるためにナイフで上下に半分に切っていく。そしてシュー皮の間にスプーンでクリームを入れていく。そのとき生地の外側にクリームが付かないように気を付ける。
「出来上がりよ。シュークリームは今までで一番難しかったと思うけど、要点を守れば必ず上手くいくから自宅でも作ってみてね」
「「「はーい」」」
製菓班の皆が出来上がったシュークリームを見てほおっと溜息を吐く。バニラの香りが立ち上る。すると突然後ろから声をかけられる。
「いい匂いね。美味しそう」
「モニカさん!?」
製菓班の全員が皆同時に同じことを予想しただろう。また強奪されると。ルイーゼは目の前のモニカに対して思わず身構えてしまった。
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