第1-6話

周りから聞こえる話し声や笑い声が入り混じる騒音を遮断するように僕は目の前の女性に集中していた。

かといって、凝視をしてしまっては嫌われて口を開いてくれなくなるかもしれない。

僕は集中しつつも、平然を装った。

「梨花さんですか。ん…聞き覚えがないですね。でも僕になにかしらの関係があるんですよね。」

藤原は少しあごを引いてうなずいた。

僕との確実に関係はあるのだ。

「しかし、あなたはなぜそうもったいぶるように話すのですか。僕にとっての友達だとか仕事関係の人だとか大まかには知り得るでしょう。」

藤原は僕の顔をじっと見て話した。

「私はもったいぶっているのではありません。荒木さんは私を見て何か感じませんか?」

彼女を見て思うこと。

なるほど。もし、昨日の僕が彼女のことを知っているのなら実際に会って、会話をすることでなにか感じるのではないかということか。

しかし、僕は何も感じない。

彼女に素直に感じないと言ってどうなるだろう。

あぁこの人は何も知らないのかと思われ、僕との会話に断念してしまうのではないか。

しかしどうだろう。話を合わすことができれば。

"感じる"と言えば彼女の話をもう少し詳しく聞くことができるのではないか。

僕は嘘の言葉にかけてみた。

「実は、事務所で会ったときから何かよく分からない気持ちを君に感じていたよ。なんといったら分からないんだけども。」

そう僕は断言的な言い方をしないよう彼女に対して感じているものがあるということを伝えた。

そういうと彼女は目をはっと見開いて口角が少し上がった。

「そうですか。それなら良かったです。」

そう言って彼女は満足そうな顔をして珈琲を飲み終わってしまった。

"すいません"

僕は店員を呼ぶために手をあげた。

しかし、彼女から手を下げるように言われた。

「もう、出ますので。」

僕は驚いた。まだなにも話をしていない。

なのにもう話を終わらそうと彼女はしているのだ。

僕は苦笑してしまった。

「いや、藤原さん。私は貴方を問い詰めるためにここに来たのですよ。なにも珈琲を飲みにきたのではありません。」

すると彼女は僕に対して笑みを見せた。

「たしかにそうですね。ですがその話はすぐに終わります。」

僕は彼女に話をうながすようにうなずいた。

「私はあなたの彼女です。」


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