第1-5話

「私があなたの会社にいた理由ですが。」

彼女は僕に淡々と話し始めた。

しかし、それは僕にとっては驚くべきことだった。

「私があそこにいたのは、ある人にあそこにいるよう頼まれたからです。」


「というと?それは僕の知っている人ですか。」


「それは分かりません。ですがあなたとの関わりはあります。」


「それは誰ですか。名前を言ってもらえますか。」

僕はなかなか明確にしない彼女に少しいらだちを感じていた。


「名前は分かりません。でもあなたなら知っているかもしれません。」


これは謎かけか?

彼女は その人を知っているが名前は分からない。

僕は その人と関係はあるものの名前も知らない

かもしれない。


僕は彼女がいったい何を言いたいのかをじっと考えた。珈琲から昇る湯気を見ながら。

そうしてふと昨日のことを思い出した。

たしかに昨日、僕はどこかに出掛けていた。

しかし僕には昨日の記憶はほとんどない。

ということはもし、昨日の僕が目の前にいる彼女と会っていたとしても

僕は覚えていない。

そしてもう一つ、僕は昨日ある女と会っている。その人の名前はメモに書かれていたメールアドレスから"りか"だ。

もしこの女性が"りか"ならば、


「ちなみに、下のお名前は何というんですか?」

彼女は急に自分の名前を聞かれ"えっ?"という顔をしたが断らないで答えてくれた。

「私は藤原 梨花りかです。」


その時僕は、一つ千切れた糸が繋がったと思った。

そしてその時点でこの会話は仕事ではなく、自分の興味からの会話になった。

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