二人の場所
突然に吹いた肌を刺すような突風に、つい隣を歩く恋人の手を握る自分の手に力が入る。
以前ならば煩わしいとしか思わなかった肌を刺すような冬の冷たい風も、手を握る口実になってくれたと考えれば、それほど悪くないものだと思える。
まさか自分がこんなことを思う日が来るなんて、夢にも思わなかった。
昔からおとぎ話に出てくるような英雄たちは、なぜ平気で愛する者たちの為に、命を投げ出してまで戦えるのだろうかと考えていたが、今ならその想いも少しだけ理解できる。
きっと皆、今この手に感じる温もりと同じものを守りたかったのだ。
大切な人にはずっとそばに居てほしいし、ずっとそばに居たい。そうやってお互いを尊重し合い、共に生きようとするその気持ちが大切なのだと、最近気づいた。
きっと恋と呼ぶのだろう、この気持ちを自覚するようになってから、世界が変わって見えるようになった。
今まで目に入ったところで特に何とも思わなかった日常の風景が、とても美しく、輝いて見える。お世辞にも豪華とは呼べない食事が、毎日大きく変わることもない窓からの景色が、ただこの人が傍に居てくれると思うだけで、何だか特別なもののように思えてくる。
命以外のすべてを失い、逃げ続けて、絶望して辿り着いたその先に、自分の生きる意味はあった。
確かにここにあるこの二人だけの場所を、未来永劫失わせることは絶対にしない。
そう決意を新たに、隣を歩く大切な人の手を今一度強く握り、示し合わせたように顔を見合わせて二人は笑った。
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