第39話 それはまるで少女漫画のような

「……ねぇ、君、僕らに何か隠し事してない?」


 定期報告の為に集まったレストラン。ライアン王子が貸し切りにしたそこでルイス様から投げられた唐突な一言に、私は食べようとしていたショートケーキの苺をフォークから取りこぼした。


「え、えぇ~っ?なんの事ですかぁ??」


「ーー……君は本当に嘘がつけない性格だよね」


「ねぇちょっとお姉さんそれ誰の真似のつもり?ぎこちなさでわざとらしく見えて全っ然可愛くないんだけど!」


 きゃぴっとテディを真似て可愛さで誤魔化そうとしたが失敗。ルイス様は更に冷ややかな目になり、テディ本人からも叱られ、ライアン王子は顔を覆って声も出せないほどに爆笑してらっしゃる。ぶりっ子が似合わない野生児で悪かったな!


「はぁ……仕方がない子ね」


 ため息をつき徐に髪をほどいたルイス様の右手が、むっすーっと膨らました私の頬に触れる。


「ねぇミーシャさん、その秘密はわたくしにも話せないことなのかしら?」


「~~~っ!!」


 突然のシャーロット様変化にドキッとしてしまう。うぅっ、ずるいぞルイス様!


「あっ、あーっ、私そう言えばお父様に今日は早めに帰ってくるように言われてたんでした!それでは失礼しまーっす!!ライアン殿下、お料理ごちそうさまでした!」


 三十六計逃げるに如かず!ここは戦略的撤退だ!


 そうレストランを飛び出し我が家の馬車に乗り込むも、少し走った先の人通りが少ない位置で家紋のない目立たない馬車に乗りかえる。改めて走り出した馬車の中、お団子をほどいて薄く化粧をして。向かうはガーデニア辺境伯領。


 薬草集めのお仕事だけではなかなか割りが悪くアモーレの購入金額を貯めるのに時間がかかりそうなので、新たな金策を考える為に。

 今日も今日とて謎の清楚系少女“ミリー”として、私はダリアに会いに行くのだ。













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「ダリア様、お待たせ致して申し訳ございません。ミリーです……って、ありゃ?」


 『お嬢様なら空中庭園にてお待ちです』と、案内された先で、ダリアはスケッチブック片手にすやすや寝息を立てていた。あらら、ルイス様に質問攻めされてちょっと遅れちゃったからなぁ。待ちくたびれちゃったか。


(起こすのも可哀想だし、見なかったことにして一旦退席……あっ!)


 風で煽られたスケッチブックがベンチから落ちかけたので、反射的に受け止める。丁度全開になったページには、少女漫画風の絵柄のイアンがでかでかと描かれていた。好奇心にかられて、つい次のページを開く。


(幼い頃の偶然の出逢い。惹かれ合いながらも立場上想いを伝えられないもどかしさ。こ、これは……!)


「少女漫画だ!!!」


「きゃっ!?なっ、何事ですか!?」


 私の大声で飛び起きたダリアに、しまったと自分の口を塞ぐ。小さく深呼吸をして、声音をミリーに切り替えた。


「遅れてしまい申し訳ございませんでした、ダリア様」


「あぁ、貴女でしたか……。こちらこそ、お招きしておいてうたた寝は礼を欠きましたね。謝罪しま……」


 ダリアの声が不自然な途切れた後、がしゃんと聞こえた陶器が割れる音。


「だっ、ダリア様!?大変!紅茶でお召し物が……」


「……ぜ」


「え?」


「何故あなたがそれを読んでいるのですか!まだ誰にも見せたことがないのに!!!」


 ドレスに溢れた紅茶など気にも止めず、顔を真っ赤にしたダリアの指が私の持つスケッチブックに向く。ヤバッ、そう言えば無断で見ちゃったんだった……!


「返してください!まだ描きかけなんですから……!」


「まぁ……!これはダリア様がお描きになったのですか!?素晴らしい才能ですわ!!!」


 ぎゅっと思わずスケッチブックを置き抱きついた私にダリアが目を白黒させる。


(ハッ!しまった!まさかこっちの世界で少女漫画にありつけるなんて思わなかったからつい……!でも良いや!ここは勢いで押し切る!!!)


「ダリア様、先日お会いした際に『次回はもう少し違った金策方法を検討しましょう』と仰いましたね?これを活かさないてはありませんわ!」


 このスケッチブックに描かれていたのは、まさしくゲームで繰り返し見たイアン×ダリアの幼少期のロマンスを基盤にしたハッピーエンドの王道少女漫画だ。絵もすごい上手だし、しかも程よく砕けた内容の貴族の恋愛物なんて、受けるに決まってる!


「い、活かすって、貴女まさか……!」


「そちらの絵物語を製本して、ロマンス小説のように市井に売り出すのです!絵があるぶん活字より内容がわかりやすいですし、きっと人気になりますわ!さぁ、売り込みに行きましょう!」


「ちょっ、待っ……お待ちなさい!私は承諾していな……というかアナタ見掛けによらず力強いですね!?」


 “ミリー”で初対面したあの日とはすっかり立場が逆転し、私は渋るダリアの手を引き領内の大型書店に向かうのだった。



 

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