第38話 変装ヒロインはライバルキャラのお友達(候補)
(あーもう!めっっっちゃ暇!!)
そう内心わめく私が今居るのは、ベルモンド商会が取り仕切る数ある商団のひとつ。ガーデニア辺境伯領を拠点にしている医学団の一般受付だ。
ギルド経由の依頼品はここで手続きをして換金して貰うとのことで来てみたけど、ここの待合室での待機がまぁ長いこと長いこと!前世で言う市役所とか大学病院レベルの待たされっぷりである。
他の人達はこんなに待たされて平気なのかしら。そう周りを見てみれば、大半の人が本を持参して読みふけっていた。成る程。
(身バレ防止で護衛騎士達には離れて待機して貰ってるから話し相手も居ないし、私もなんか持ってくれば……いや、駄目か)
この世界の本は小説ばかりだ。そして私は活字を読むと寝る。完全に詰みである。
「ふぁ……」
それからも待たされること15分。ついあくびを噛み殺した時だ。少し前に駆け込んできた1人の少女が受付所で抗論を始めた。
「だから!何故こんなに質が良いものばかり持参したと言うのに買い取って頂けないのですか!!」
「そう仰られましても、規定の依頼を受理された方々から以外の持ち込み品の買い取りは規則で禁じられておりますので……」
「そんな……!」
(『そんな……!』はこっちの台詞だわ!なぜ貴女がここに居る!!?)
困り果てた受付嬢に尚食い下がっているのは、変装の為か髪をポニテにしメガネを外したダリアだった。いやまぁあのお高そうな薬草やら花やら装飾品やらを見れば目的はわかるし気持ちもわかるし、なんならここは彼女の地元だから居るのはわからなくもないんだけどさ!こんな遭遇の仕方ある!?
柱の陰に隠れながら、ハラハラと成り行きを見守る私。
そんな中、全然引き下がらないダリアに焦れたのか、警備担当らしき若い男がダリアの手を捻り上げ出口へと引きずり始めた。まさか相手が領主の娘だとは夢にも思ってないんだろう。
「お待たせしました。番号札19番でお待ちのミリー・フロライド様。換金受付前までお越し下さい」
「ーっ!?(何でこのタイミングで呼ばれるかな!このままじゃダリアが心配だし、でも換金が……!)~~~っ!ご、後日改めて伺いますわ。ごめんなさい!!」
今しがた呼ばれた番号札を受付所に返して、今にも投げ出されそうになっているダリアを助けに飛び出す。3段程の階段下に向かい放り出されたダリアを抱き止めて、そのまま地面に落っこちた。
「痛たたた……!大丈夫でしたか?」
「え、えぇ、お陰様で……。ですが、貴女は?」
「あ、えぇと、その……」
怪訝そうに聞かれて言葉に詰まる。そうだ、私今は変装してるから表面上ダリアとは初対面なんだ……!なんならダリアも変装してるから、端から見たらお互い完全にはじめましてである。
(ダリアは頭良いから下手に誤魔化しても絶対ボロが出るし、ここは戦略的撤退だ!)
「な、名乗るほどの者ではございませんわ。女性にあの仕打ちは流石に危険だと思いつい飛び出してしまっただけですの。では、ごきげんよう」
ほほほほっとお上品に笑って立ち上がったけれど、ガシッとワンピースの裾を握られた。なんじゃい!
「いいえ!助けていただいた恩義を返しもせずに行かせるわけには参りません!お怪我の手当てもあるでしょうし、一度我が家へいらしてください!!」
『お前達!この方をご案内なさい!!』とのダリアの掛け声でどこからともなく現れた執事とメイドに連れ去られ、ぽいっと馬車に放り込まれる。
「ちょっ、お嬢様!?どちらに行かれるんですかーーっっっ!!?」
異変に気づいて駆け寄ってきていたが間に合わなかったうちの護衛の叫びは、走り出した馬車の音で無情にもかき消された。
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「どうぞ。別邸なので手狭ですけれど」
いや、十分広いが?
そう思いつつもおくびにも出さず、借りてきた猫のように大人しくソファーに腰かける。まさかこんな形でダリアの家(別邸らしいけど)にご案内されてしまうとは……。あと、目の前で私を拐われたうちの護衛達大丈夫か?大事になってないと良いんだけど。
「どうされました?お口に合わないなら違うものを用意させますが」
「いえ!大丈夫です。お気遣い頂きありがとうございます、ダリア様」
「……っ!」
向かい合った先で目を見開いたダリアに、どうしたのかと首を傾げる。
ダリアは小さく息をつき、髪をほどいて取り出したメガネをかけ直した。
「やはり、私がダリア・ガーデニアと気づいていたのですね」
そう言われてようやく、さっきのリアクションの意味に気づく。そうだ、今の私はミーシャじゃないんだった!!!
(や、やっちまった系ですなこれは……!)
沈黙の中ダラダラと内心で冷や汗をかく私。
つまりダリアからしてみれば、今の私は変装していたのを見抜いたからこそ恩を売るために彼女の窮地を助けに入った不審人物ってこと!?だからこんな無理矢理お屋敷まで連れてきた訳!!!?1から10まで誤解だよ!?
「そんなに恐縮しなくて大丈夫ですよ。ここには両親は来ませんし、使用人も最低限しか居ませんから」
……が、ビビる私に反して、ダリアはそう穏やかに微笑んだ。
「学園や家では常に気を張っているので、こうして私のことをあまり知らない方とお話出来るのは新鮮なんです。良ければ少し、お時間を頂けませんか?」
「……っ!生憎、本日はあまり時間がありせんが、また次の週末にはこちらの領地に仕事に参りますのでその際で良ければ、是非」
そう語るダリアがなんだか寂しそうに見えて、ついそう答えてしまった。
パァッと表情を明るくしたダリアに、ぎゅっと両手を握られる。
「わかりました、ではまた来週、先程のギルドの近くに迎えの者を向かわせます。約束ですよ!ところで、お名前を伺っても良いですか?」
「え!?あ、えぇと……。ミリー・フロライドと申します……」
見かけによらず幼い可愛らしさがある声音で問われ、私はもうそう答えるしかなかった。
(いやいやいやいや!これからどうすんだ私ーっっっ!!!)
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