第28話  ミーシャの災難

 皆様、今日び乙女ゲームが舞台の転生ラノベが世界に溢れておりますが、実際にゲームをプレイした事がある方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?意外と自分ではプレイしたことない人案外居るんじゃない?もったいないよ、やろうよ!!……話が逸れた。

 数多の乙女ゲームをやり込んだ私の主観による独断と偏見ですが、基本好感度があがるまではヒロインから相手に会いにいくのが基本なのでこういう恋愛ゲームは総じて攻略対象のよくいる場所やイベント会場が定まってる場合が多いです。じゃないと背景グラフィックとかとんでもない種類必要になっちゃうもんね!


 話が逸れた。つまり私は、昨日作った攻略マップを頼りに今、攻略対象の行動を逐一追っかけてるワケなんだけど……。

 遊んだことがある方もない方も、ひとつご理解頂きたい。これ、生身になると同時攻略無理だわ!


「こ、校舎が広すぎて移動が間に合わんのよ…………!」


 誰に言うでもなく呟きながら、ガラガラの図書室のテーブルに突っ伏す。私が今日見たかったのはブレイズ&ミシェルペアの怪我手当てのミニイベントと、イアン&ダリアペアの二人でお勉強イベントだ。と言っても、本来はゲームではそこに都合良くヒロインが出くわし、攻略対象にもっともらしい理由をつけて肩を貸して欲しいと頼まれたり、貴女も一緒に学びませんかと一緒にお勉強したりする流れになるわけなんだけど、当然私は乱入する気はない。

 ただそれを利用して二人に距離を縮めてもらい、あわよくば美男美女のスチル場面を鑑賞して萌えを充填したかった次第だ。


(ブレ&ミシェの方は単に手当てどころかハグシーンまで見ちゃって大満足だったけど、つい夢中になってこっちに来るのが遅れたわ。発生時刻は後期試験一週間前の水曜日。午後3時から3時半の間の図書室のみ)

 

 ちらりと見た柱時計の時刻は、既に4時を過ぎていた。そして会場はもぬけの殻。完全に出遅れである。


(仕方ない、また後日出直すかぁ……) 


「ん?あのピンクのはねっ毛は……」


 奥の薬草類図鑑の棚らへんでみょーんと飛び出したピンクの触角が揺れている。そーっと手を伸ばしてぎゅっとそれを摘むと、静かな図書室に悲鳴が響いた。


「みぎゃーっっっ!!!いきなり何すんのさ!?」


「いや、魅惑的な揺れ方してるからつい……ごめんごめん」


「んぎーっ!頭を撫でるな!イノシシの次はネコにでもなったつもり!?言っとくけどお姉さんより僕のがずーっと頭良いんだかんね!!」 


 『離してよ!』と私から触角と言う名のアホ毛を取り返したテディがぷんすことほっぺを膨らませる。とても可愛い、そのほっぺたをツンツンしたい。


「……お姉さん、また変なこと考えてるでしょ」   


「エー、ソンナコトナイヨ?」


「白々しい!!」


 バレたかと私が笑うと、たくさんの図鑑を抱えたテディも苦笑を浮かべる。なんとなくだけど顔色が悪いしクマがあるような気がして、そのまろい額に自分のおでこを当ててみた。ぎょっとした様子のテディがあからさまに固まる。


「なっ、なに……?」


「あ、ごめんね。最近全く会ってなかったし顔色良くないから具合でも悪いのかなって……熱はないけどクマ凄いね、大丈夫?」


「……っ!」


「およ?」


 身体を離そうとしたら、テディが一瞬私の腕に縋り付くような仕草を見せた。でもすぐに我に返ったように、叫びながら一気に出口まで後ずさる。


「ベっ、べべべ別に動揺なんかしてないし!?最近お姉さん達の所行かなかったのは単に新しい薬の開発依頼が来てそっちで忙しかっただけなんだから!僕がお姉さんに興味持ったのはあくまでオモチャとしてなんだから調子乗らないでよね!!それじゃあご機嫌よう!!!」


「えっ!?あ、うん、ご機嫌よう…………」



 真っ赤な顔で捲し立て飛び出していったテディをあ然と見送る私の真後ろで、仁王立ちした司書のふくよかなおば様教師の禍々しいオーラが揺れる。ポンと優しく肩を叩かれビクッとなった。

 こ、これは嫌な予感…………。


「ミーシャ・フォーサイス伯爵令嬢、図書室は静粛な場です。成績優秀な貴女なら、当然おわかりですね?」


「は、はい……おっしゃる通りで…………」


「わかっておりながら先程の騒ぎは何事ですか騒々しい!!先日の落下騒ぎと今回の件の罰として貴女には明日から一週間、医務室のジーニアス養護教授の補佐役を務めて頂きますからそのつもりで気持ちを改めなさい!!」


「ーっ!!?」


 恰幅のいい身体を揺らしながらのお説教に気圧されてる間に首根っこを持たれペイッと図書室から放り出された。


「わ……、私よりテディのが騒いでたのにぃぃぃぃぃっ!!!!」


 無人の廊下に虚しく響いたその叫びは誰に届くでもなく、私は一週間の教授のパシリの刑に処されたのでした。クスン。











「ジーニアス先生、失礼します。お手伝いに伺いましたー」


「どうぞ、お入りなさい」


 うながされるまま中に入れば、少しだけ鼻をつく消毒液の匂い。あー、お医者様の部屋って感じ。


「経緯は聞いていますよ、貴女は何かと難儀な性格ですね」


「あはは、お恥ずかしい限りです……」


 誤魔化し笑いで眉を下げた私に気を使ってくれているのか、メガネを頭に上げて普段よりいくらか優しげに笑ったジーニアス先生がお手伝いの内容を箇条書きにした用紙を渡してくる。


「貴女には災難だったでしょうが、私は他の教授方と違い研究生も連れていないので正直助かりますよ。そこに記したとおりそんなに難しい作業はありませんから、進めていて貰えますか?私は少々探しものをしておりますので」


 あぁ、それで整理整頓好きなはずのジーニアス先生にしては部屋が散らかってるのか。わかりましたと頷いて、指示された資料の仕分けを始める。半分くらい済ませてもまだガサゴソしているその背中に何気なく声を掛けた。


「まだ見つかりませんか?こっち割と順調そうなので、一旦中断して探すの手伝いましょうか。何が無いんです?」


「ありがとうございます。気持ちは嬉しいですが室内には生徒に見せてはいけない資料もありますから……。しかしどこへ行ってしまったんでしょうか。私のメガネは」


「嘘でしょ!?」


今あなたの頭に乗っかってるよ!?本体メガネ!!!


「あ、あのー……先生」


「はい、なんでしょう?」


「その……頭の上に……」


私の言葉に素直に頭上を触ったジーニアス先生がハッとした顔でメガネを外す。


「あぁそうか、威圧感を与えないよう初めは外しておこうと上に上げたんでしたね。失念していました、感謝しますミーシャさん」


そう微笑むその顔は出来る大人の男そのもの。しかし、私は気づいてしまった。


(この人、さてはメチャクチャど天然だな……!?)


ただでさえ攻略の方で手一杯なのに今日から一週間、大丈夫か私ーっ!!!




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