第27話 必勝アイテムは攻略ガイド
乙女ゲームをあまり詳しく知らない方達の為に、ある定義を教えよう。
それは、攻略対象の男性たちには必ず自分だけでは乗り越えられないコンプレックスやトラウマ。いわゆる“病み”の面が隠されていると言う事である。なんせそれを見抜き癒してメロメロにさせるのがヒロインの存在意義なんでね!!
つまりだ、それは同時にね?全員がいつ暴発してもおかしくない爆弾抱えてるってことなんだわ。それも周りへの影響力大きな有力貴族ばっか!!ゲームとして第三者で見る分には面白いけど、側で生きる当事者になってみるとたまったもんじゃねないでしょ!?特にライアンルートのバッドとか影響出たとき真っ先に苦しむの民だから、貴族じゃないから!!
(いや、怒っても仕方ない。これまでシャーロット様にばっかにかまけて現実見てなかった私が悪いんだ)
いやもちろん、今後ともシャーロット様とルイス様には仲良くして頂きたいとは思ってるけど。私自身が楽しく生きるためにも、先に攻略対象達の病みをどうにかしといた方が良いと思ったのだ。
ライアン王子もブレイズ、テディにイアンも、あとライバルの女の子達もね。何だかんだ皆、前世で散々見てきた子達だから既に情がある。幸せでいて欲しいなって思うのは悪いことじゃ無いでしょ?
「と、言うわけで特進クラスのイアン様とダリア様の仲を取り持ちたいと思ってるんですよ!」
「……ごめんなさいミーシャ。もう一度初めから説明してくださる?」
飲み終えたティーカップを静かにソーサーに戻しながら、シャーロット様が首を傾げる。あぁ、久しぶりのブロンドヘアが眩しいです!
「えっと、この間、本を借りたくて図書室に行った時に踏み台を使ったら、足が滑って落っこちちゃったんですよ」
「えぇ、それはわかったわ。以後お気をつけなさい。それで?」
「その時私を庇って怪我をされてしまったイアン様がヤキモチ全開のダリア様に叱られてお困りになってたので、お詫びにおふたりが幸せな結婚が出来るようお力添えしようと思いました!!」
力いっぱい言い切ると、シャーロット様がガンッと音を立ててガラステーブルに突っ伏した。だっ、大丈夫ですか!?
「だからその間を説明しろって言ってるんだよ。何故こう毎度毎度暴走出来るんだ、訳がわからない…………!」
「あ、あのー……シャーロット様、大丈夫ですか?」
「ーっ!えぇ、大事無くてよ。お話は一応理解しましたが、何故それをわたくしに話したのですか?」
「え?だって恋絡みのお話ですし、男性陣よりは女の子同士で話したほうが良いかなって」
「まだ本当に欠片も気付いてないのか……」
「え?」
「失礼、独り言です。今更貴女を止めようだなんて無駄な事はしませんが……。とりあえず、件のお二人は王家も目をかけている将来有望な御仁です。下手に口出しして事態が悪化しないよう、まずは情報収集から行うように。それから、ダリア嬢の悋気の酷さは上位貴族の間で有名ですので、貴女自身はあまりイアン殿とは接触しない事。良いですね?」
「了解です!」
ピシッと敬礼して気合は充分。ではまずは!!
「腹ごしらえに学食の限定ランチ食べに行きましょう!」
「……本当に、貴女は人生楽しそうで良いわね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の放課後、私はある物を求めて教授達が授業外の際に集まる教員室(まぁ要するに現世で言う職員室)を訪れた。……ら、何故かもぬけの殻だった。なぜだ??
「どうしました?教授方なら昨夜紛失した実験用の薬草類の管理責任を問う為に緊急会議だそうですよ。自分はあくまで医務室しか関わり合いがないので不参加ですが」
「なんですと!?」
「おっと!元気なのは良いですが、お転婆が過ぎるとまた怪我をしてしまいますよ」
「すみません、ありがとうございますジーニアス先生」
穏やかに微笑んで抱きとめた私を下ろし、校内医であるジーニアス先生が白衣の襟を正す。やっぱ美形だよなーこの人。……ではなくて。
「それで、今日はなぜこちらに?教授からの呼び出しや質問であればここではなく個別の研究室を尋ねるのが普通だと思いますが」
「あ、教授方に用事がある訳じゃないんです。ただちょっと、校内の造りがわかる見取り図が欲しくて。確か入学案内の資料に小さく乗ってたから、原本の大きな図とかありませんか?」
「見取り図……ですか?確かこちらに……あぁ、あったあった。これですか?」
共有資料の棚を軽く漁り、ジーニアス先生が目当てのそれを見せてくれる。
校舎内はもちろん、各校舎の間の庭園の詳細やらなんやらてんこ盛りのそれですよ!
「はい、そちらです!叶うなら写させて頂きたいのですが宜しいですか!?」
「近い近い近い。別に見せたところで何も不都合はありませんし、そんなに欲しいのであれば複写機で写しを……ん?貴女、先程なんとおっしゃいました?」
「はい、そちらを自分の手で写させてほしいと申し上げました!!!」
元気一杯に答えながら持参した方眼用紙、分度器、定規に筆記用具を取り出せば、ジーニアス先生は硬直した。
その日、無人の筈の教員室には“微笑み以外の表情を見たことがない”ともっぱら評判の美形校内医師・ジーニアスの爆笑する声が響いたと言う……。
「あんな息が絶え絶えになるほど笑わなくても良いじゃんジーニアス先生ッたら!失礼しちゃう!!」
その後、数回満ち引きを繰り返した爆笑の波から生還したジーニアス先生から結局『手書きでは時間がかかりすぎるでしょう』とコピーの見取り図を貰いまして、若干腑に落ちないながらもお礼を告げて帰宅した私。只今、自室に籠もりましていただいた見取り図にある書き込みをしております。
ライアンが太陽、ブレイズが炎、イアンがメガネ、テディがくまちゃん。
ライバルキャラの女の子達はそれぞれ、対象男子のマークのピンクverにしまして、ゲームでも再三お世話になった見取り図さまにペタペタ貼っつけていく。
そうこうすること一時間半後…………。
「よーしっ、出来たーっ!各キャラの定番遭遇位置&イベントポイント網羅マップ!これさえあればフラグ回避しつつ、ライバルキャラと攻略対象の仲の仲介なんて楽勝よ!」
ゲームやり込んでて良かったーっ!隠しキャラのルイス様は流石に読めないけど、他の皆の行動パターンならある程度予測出来る!
ついでに新しいノートに各キャラのルートの大まかな流れや発生条件も書き込んで、お手製の簡易攻略本も完成。
「演劇は一年でもう終わったでしょ。あと全キャラ関わってくる学園行事系イベントは2年の音楽祭と卒業直前の美術祭……ありゃ?」
一応照らし合わせてみようと取り出した年間行事予定だけど、何故か美術祭の記載が無かった。印刷ミス?まぁいいや、そっちはまだ開催まであと一年以上あるし。もしかしたら来年度から新しく出来る行事なのかな?
「なんにせよ、これでニアミスでのフラグ乱立は回避だ!ついでに裏から頑張って、誰も不幸にならない大団円目指すぞーっ!!!」
誰も居ないので自分で『おーっ!』と返してベッドに潜り込む。今夜はぐっすり眠れそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます