第25話 転生ヒロインは恋がわからない
ミーシャが前世でハマっていた乙女ゲームの悪役令嬢、シャーロット・ハワード。本名、ルイス・ハワード。
幼き頃より公爵家嫡男として男らしくあれと厳しく育てられた彼は、ある年に一転、王家からの命により女性として振る舞う羽目となってしまった。
かくして、元よりの中性的な美貌と完璧主義が相まった結果、シャーロットは悪役でありながら人気投票で5位に入るほどの魅力的な令嬢へと開花したのである。
そして、その境地に至るまで血の滲むような努力をしてきた彼女(彼)の淑女教育は、それはそれはもう、大っっっっっ層に厳しいのであった……。
「貴方、まさかそんなはしたない姿勢でお菓子をつまんで許されるおつもり?もう一周やり直しですわ!」
「うわぁぁぁぁんっ!もうヤダこの鬼ぃぃぃぃぃっ!!」
「あー、紅茶が美味しい……」
「ちょっと!よそ見してないで助けてよ!!」
「貴方の方こそ脇目を振らず集中なさい!」
パシーンっとシャーロット様仕様のルイス様に扇で叩かれて、小型犬見たくキャンキャン喚いていたテディは渋々また本を頭の上に重ねた中庭散歩に向かっていった。あれ本当に姿勢正すのに意味あるんだー……。なんて思っていたら、ぽすんと頭上に何かが乗せられる。
「何だか騒がしいと思ってきてみれば一体どうしたんだい?ずいぶんと愉快な事になっているじゃないか」
「ライアン王子!」
「……ライアン、王太子ともあろう者が他所の令嬢の頭に自分の腕を乗せるものじゃない」
呆れ顔で戻ってきて私の頭からライアン王子の腕を退けるルイス様に、ライアンは更に愉快そうに笑った。
「あっれぇ?令嬢言葉は良いのかい?」
「あれはあの子の手本としてやっていたんだ。ここならばひと目もないし声くらい構わないだろう」
「そうやって油断してるとまた足元掬われますよー」
「ほお……、再三テーブルマナーの講義やら何やら手解きしてあげた恩人にそういう事を言う悪い子はここかな??」
「ひーっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!調子に乗りました!!」
頭を守るポーズでうずくまった私に、ルイス様とライアン王子は顔を見合わせて小さく吹き出す。ほんっと仲いいよなこの二人。
(本物のシャーロット様とライアン王子も仲いいけどねー。ってかルイス様も兄なら妹の恋に気づかんかい!)
しばらく雑談したあと、ライアン王子は『じゃあ僕はまだ用があるから』と去っていった。
二人っきりになったそのタイミングを見計らい、思い切ってルイス様に直接物申す!
「ルイス様!兄の立場から見てシャーロット様ってライアン王子のこと好きだと思いませんか!?」
「……は、はぁぁぁぁぁっ!?」
未だにルイスとシャーロットが同一人物と微塵も気づかないミーシャの勘違いは、絶賛猪突猛進中なのであった。
そして、ここにも勝手な勘違いで暴走しようとしている者が一人……。
「んぎぃぃぃ……、何さ!僕には散々やれ課題だなんだって偉そうに命令しといて自分は呑気にお茶会とか!今に見てろ、目にもの見せてやるんだからねっ!!そうだ、あいつの妹君がライアン王子に懸想してるんなら、ふふふ…、良いこと思いついちゃった!」
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翌日、あの後散々私に『それは君の勘違いであり断じてあり得ない』と言い聞かせたルイス様に何か言われたのか、シャーロット様は学校を休んだ。
(はぁぁぁ……、結局私の勘違いだったかぁ。お似合いだと思ったんだけどなー)
ブレイズとミシェルの時も思ったけど、“恋”って意外と難しい。
それにしても今日はライアン王子は早退けしたしテディは鬼の居ぬ間にどーたらこーたら騒ぎながらどっか行っちゃったし。暇だぁ……。
「今日は一人なのか?珍しいな、ミーシャ嬢」
「ーっ!ミシェル様!ご機嫌麗しゅう」
「はは、礼は大分様になっているな。シャーロット嬢のスパルタ指導の賜物か?」
「あ、あはは、まぁ……。噂になってます?」
「君もだが、シャーロット嬢もテッド殿もなかなか有名人だからな。致し方あるまい。同席しても良いかな?」
頷いて、ベンチの端に移動する。隣に掛けたミシェルが広げたのは、手作りらしきサンドイッチだった。
「ミシェル様、料理するんですか?」
「ーっ!あ、あぁ、最近屋敷の料理人に教えを乞うている。ブレイズが、その、婚約者の手料理を食べてみたいと言うからな……」
普段は凛々しく力強いミシェルが、今は恥じらった表情ですごく可愛い。恋は人を変えますなぁ。
「ーー……恋って、何なんでしょう」
「ん?いきなりどうした?」
しまった、と一瞬思ったけど、この人ならきっと笑ったり馬鹿にしたりはしないだろうし、話してみても良いと思った。
「いやぁ、私、生まれてこの方恋をした事なくて。“好き”ってどう言う感じかわかんないって言うか……いや、シャーロット様とか周りの人たちのことは大好きなんですけど、そう言う好きと何が違うのかなぁ、みたいな」
あぁぁぁ、言ってて自分でも訳わかんなくなってきた。何言ってんだ私!ミシェル困ってるよーっ!!
「あ、あはは、何言ってるんですかね私。忘れてください」
「いや、別に構わないが……。つまりミーシャ嬢は、恋愛の好きと、親愛や友愛の違いがわからず悩んでいる。と言う事で良いかな?」
「…………っ!そう!正にそんな感じです!ミシェル様すごい!!師匠と呼ばせてください!」
「いや、私もまだ両想いになったばかりだしそれ程でも無いが……。そうだな、ではまずは追体験から始めてみたらどうだろうか?」
「追体験……??」
頷いたミシェルが、中庭から見える施設棟を指差す。
「私はあまり読まないが、巷ではロマンス小説とか言う恋愛を題材にした女性向けの読み物が流行っているのだろう?そういった物を読むだけでも、新たな価値観を得られるのではないか?うちの学園の図書室にもいくつか代表作が並んでいた筈だが」
「……!ありがとうございます、行ってみます!!」
図書室!確かに行ったことない!!
目からウロコの提案に、喜び勇んで図書室に向かった。
そして一時間後。
「…………眠い」
撃沈。活字のみの本てなんでこんな眠くなるの!?内容自体は面白そうなんだけど、文字だけじゃ場面がなかなか頭の中で繋がんなくて気持ちが入らない!本音言うなら小説より漫画が良い!!
「ふぁぁぁ……」
まばらに居る他の人に気づかれないようにあくびを噛み殺して立ち上がる。
駄目だこりゃ、もっと短いのから読もう。短編集とかのが良いかなー?とりあえず今読んでたこれは返すかぁ。
寝ぼけ眼で踏み台に上り、元あった場所に本を置くため手をのばす。が、戻しそこねた本が手を離れて投げ出されてしまう。
慌てて取ろうと大勢を変えたせいか、ガクンと足が踏み台から外れる。そのまま下へと投げ出された私は。
「ーっ!危ない!!」
「きゃっ!」
気がつくと、グレーの髪を三編みにしたメガネ男子の上に尻もちをついていた。
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