第24話 本職(?)の矜持
突然、あれだけしつこかったテディからミーシャへの突撃が止んだ。と、言うよりも、そもそもテディの方はこの2日学園にすら来ていないようだ。
ミーシャ自身は『平穏が帰ってきた……!』と珍しく静かに日常を噛み締めているが、正直ルイスはこう感じている。
“嵐の前の静けさ”だと。
そして昔から、ルイスの勘は当たるのだ。
「シャーロット様ぁ、ごきげんよう!」
「ーっ!」
突撃がパタリと止んでから3回目の奇数日である今日、シャーロットは人気の無い資料室にて突然現れたテディに抱きつかれた。
華奢な体躯で腰元にしがみついてくるその頭を押さえ、心底冷たい眼差しで押しのける。
「貴方……未婚の女性の身体に何の許可もなく抱きつくだなんて何様のおつもり?」
並の男ならばひと睨みされただけでひれ伏しそうなその視線にも動じず、払い除けられたテディはにこやかに笑う。
「え〜っ、冷たいなぁ。男同士なんだからいいじゃないですかぁ」
軽い口調で落とされたその爆弾にシャーロット姿のルイスがサッと自分の姿を確かめる。髪も制服も乱れていない、抱きつかれた腰にはコルセットがキツく巻かれていた為体型はわからなかったはずだ。それなのに何故……。
「あはははっ、何故って顔してる!シャーロット様もキッツい顔して意外とまだ純真なんだ。それだけ完璧に擬態しておきながら詰めが甘いもんね」
一息に言い切ったテディが『これ、なーんだ?』と一枚の写真を掲げる。それは、ヴィッグを外した制服姿のルイスの隠し撮りだった。アングルからして頭上から撮られた物だとわかり、油断したと歯噛みする。そんなルイスを嘲笑うように、天使な悪魔が微笑んだ。
「コレ、バラまかれたくなかったらぁ…………わかるでしょ?」
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「もうとっくに嫌と言う程ご存知でしょうがご紹介しますわ。下級生唯一の特待生の……」
「テディ・アルトリアです!よろしくお願いしまぁす」
「つかぬ間の平穏は終わった!!!」
放課後の中庭、木々に囲まれた東屋のお茶会にて唐突に起きたまさかの事態に私はその場で崩れ落ちた。何てことしでかすんですかルイス様!紹介なんかされちゃったらもう正真正銘知り合いになっちゃうじゃないですか。何がどうしてそうなった!?
「……やむ終えない事情があるんだ」
「それはそうでしょうけども!!ってちょっ、声声声声!!!」
シャーロット様に擬態したままそんなひっくい地声出したらテディにバレるでしょうが!と思いきや、当のテディは私達を見てただ可愛らしくニコニコしている。逆にルイス様はもう手遅れとばかりに遠い目をしていた。
ははーん、さては弱味でも握られたな……?ルイス様が定期的にシャーロット様のフリで女装してる証拠を抑えられたと見た。
「ねぇねぇ、僕は自己紹介したのに先輩は答えてくんないの??」
いつの間にやら私の腰にしがみついたテディがきゅるんっとした眼差しで見つめてきた……ので、その中身も外見もピンクな頭に思い切りチョップを落としてやった。
「いったぁぁぁいっ!何すんのさ!!」
「残念だったな、私はショタよりロリ派だ!!」
「そんな!まさか僕の可愛さ攻撃が効かないなんて……!」
「ーー……仲いいね、君達。本当に他人?」
他人ですよ。えぇ、未来永劫ルート入らない方向ですとも!と、名乗る気無いですアピールでうずくまってるテディからプイッと顔を背けた。
「ちょっと……こんっっっな可愛い美少年が泣いてるのに無視とか人の心は無いわけ?」
「だってどうせ嘘泣きでしょ?悔しかったら美少女になって出直してらっしゃい!」
「にゃにおぅ!わかったよ、今に見てろ!!!」
そう負け惜しみを叫んだテディは一目散にまっすぐ走り去っていった。ほら、やっぱ嘘泣きじゃん!ゲームでも十八番だったもんね!
「まぁいいや。さっ、ル……じゃないや、シャーロット様!今のうちに帰…」
「これでどーだ!!!」
「うわ戻って来るの早!!って、ん!!?」
「どーお?医務室の予備を貸してもらっちゃった!ほらぁ、見てみて、僕ってばすっごく可愛いでしょ?」
びっくりして固まる私達の前でテディが身を翻せば、フリルのついたスカートがひらりと揺れた。いや、学園の女子制服似合い過ぎや。違和感仕事放棄すな!!!
「ねー、無視されたら悲しいな?」
「はっ!!」
いけない、動揺のあまりエセ関西弁になってた。
しかし改めて見るとかーわいいな。まつげバサバサぱっちりお目々、ふわふわボブなピンクの髪の毛、小柄で華奢な身体に高くて甘い声!美少女じゃん、もう、まごうことなき美少女じゃん!
「可愛い…………!」
「やったぁ!女装なんて初めてしたけど、僕の可愛さにかかれば当然の結果だよ、ね!!?」
女子の制服姿のままふんぞり返っていたテディが突然倒れた。背後から頭にゲンコツを喰らったからである。
「ちょっと!何すんっ……の…………」
怒り心頭で振り返ったのに勢いを無くすテディの肩に、ルイス様が真顔で手を置いた。
「先程から黙って聞いていれば……ふざけるのも大概にしなさい。顔だけ可愛らしく服が似合うだけならば誰にでも出来る」
趣にそう言葉を切ったルイス様の瞳がカッと開いた。
「口調が素と変わっていない。声音は地声が高いだけ。姿勢が悪いから足が開いている。そもそも女性として振る舞うにはあまりにも所作がおざなりだ。全く優雅じゃない!!!」
景気良い音をさせて扇で机を叩いたルイス様にテディがビクッと肩を震わせ、あろうことか私の背中に隠れた。おいこら、巻き添えにすな!
「丁度いい。大分マシになったとは言えミーシャ嬢もまだまだ課題が多い。いい機会だ、二人まとめて性根から叩き直してやる!」
「ひぇぇぇっ、恐いよーっ!何でこの人こんな女装にガチなの!?」
「私だって知らないよーっ!!!」
かくして、はからずも寝た子を起こしてしまった私達の特訓の日々が始まった。
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