第23話 腹黒ショタっ子は狙った獲物を逃さない

「僕、貴女に興味が湧いちゃった!」


 パステルピンクのふわふわ髪に水色の瞳、天使のように愛くるしい美少女顔のこのショタのセリフを私はよ〜〜〜〜っく、知っている。


 これは、このセリフは、こやつのルートに入った証明だ。


「〜〜〜〜〜っ!!」


「おっと!逃さないよーっだ」


 考えるより先に走り出そうとした私の腰に抱きついて、可愛い顔に似合わぬ怪力で抑え込んでくる美ショタ。ウリ坊の二つ名を持つこの私の走りを止めるとは此奴……出来る!!


 って、そりゃそうだ。

 一見可愛いこの少年、名前はテッド。愛称はテディ。平民出だが異常に頭がよく、数年前治らないと言われていた病の特効薬の調合を発見した功績から特待生として特別入学を許された天才ショタ、シンデレラボーイなのである。あくまで!!


「ねぇねぇお姉さん、こ〜んな可愛い僕からどうして逃げるの?」


 きゅるんっと、まん丸いお目々を上目遣いにして見てきたって絆されるもんか!

 私はお前が実は隣の国の王子様でこの国に偵察に来てんの知ってんだかんな!!!


 そう、聞いて驚くなかれ。こいつの本性は、ライアン王子に一目惚れした妹と国の利益の為にシャーロット様を始末しに来た鬼畜王子なのだ。何がテディか、テディベアに謝れ馬鹿!!


 とは言え、何も暗殺だとか物騒な話までは行かない。ただ、テディはライアン王子の心が他の少女に向くようけしかけた上でその女を自分が落とせば良いと考えてるだけだ。美ショタでナルシで自信家の女たらしかよ、属性多いなおい。


 しかしそこで問題が。王子なんてのは生まれてこの方散々美女に言い寄られて生きてきた人種だからそう簡単に女に興味なんか沸かないのである。

 仕方ないからとりあえずライアンがシャーロット以外で仲良くしていそうな女性を探る為彼の周りを嗅ぎ回っていたテディは、ある日見つけるのだ。周りとは異彩を放つ一風変わった令嬢ヒロインを。


 そして彼にロックオンされた挙げ句のセリフが冒頭のアレ。『貴女に興味が湧いちゃった!』である。


 もおヤダァァァァァっ!何でフラグ立ってんだよルート入るようなこと別に何もしてないよ。こいつのルートバッドで事故死、ノマで即妃として隣国に誘拐、ハッピーで卒業式でライアンから告白されてる途中で乱入されて略奪されるって言うどこ転んでも波乱か破滅しか無い地雷キャラなんだよ。ヤバイよ!!!


「ぷーっ、無視だなんてひどくなぁい?」


 可愛らしくほっぺた膨らませてるんじゃないよ私より可愛い顔しちゃって!とにかく!ここは相手に名乗らせず自分も名乗らず逃げるに限る!貴族社会では互いに名前を知らない関係はただの他人だ、そうですよねシャーロット様!!


『そうよ、よく覚えていたわね。褒めてあげてもよろしくてよ』

 

「ありがとうございます!!」

 

「うわっ!いきなり何!?」


 イマジナリーシャーロット様に感謝した私の声にビビって、腰にしがみついていたテディの力が緩んだ。今だ!


「おほほほ、私急いでおりますの。ごめんあそばせーっ!!」


 一瞬のスキを突いて脱出成功!テディが呆けている間に全速力でその場を離れる。足速くて良かったーっ!!!


「ふぅん、そーゆうことするんだぁ。逃げられちゃうと、余計追っかけたくなっちゃうなぁ……」














「あっ!せんぱーいっ、ご機嫌よ……「あぁ大変、プリントが!」ちっ、中庭待ち伏せ作戦も駄目か……」



 わざと風に飛ばしたプリントを集めるふりして回避成功!だけど、いい加減うんざりなのである。


 あの敵前逃亡から二週間。あれから毎日、私はテディからのご挨拶突撃を喰らい続けているのだ!


「ゔぁぁぁぁ……、気が休まらない……!」


「淑女が口を開けたまま空を見上げるんじゃありません、みっともない……。と、言いたいところですが、流石に同情はしますね」


 一緒に中庭に来たシャーロット様……改め、今日は奇数日なのでルイス様が、苦笑気味に私の方にケーキを差し出してくれる。優しい!今優しくされるとコロッと行っちゃいそうだから止めて欲しいけど、ケーキは素直に嬉しい!


「ありがとうございます、いただきます!」


 ありがたく頂くと、優しい甘さが染み渡る。じーんとそれを噛み締めながら、ふと思った。


「もしかして昔の私って、シャーロット様からしたら今のテディみたいな感じだったんでしょうか……」


「あら、自覚がお有りになって?」


 しれっと返されて机に突っ伏した。人の振り見て我が振り直せとは正にこれである。


「私、しばらくシャーロット様絶ちしようかなぁ……」


「は!?」


「え!?」


 いきなり素に戻ったルイス様の声にびっくりして顔を上げたのに、パッと視線を逸らされる。何なんだ。


「……っ、ま、まあ当時は戸惑っただろうが、今は君と居ると退屈しないからわざわざ離れることはないだろう」


 それだけ言うなり、ルイス様はそそくさ先に教室に帰ってしまう。

 変なの、と思いながら、私は残りのケーキを堪能した。











「あーもうっ、調子が狂うな……!」


 ミーシャから逃げるように離れたルイスは、人気の無い空き教室に逃げ込み頭を冷やしていた。厳重に鍵をかけカーテンも締め切り、熱気が籠もってしまったヴィッグを外す。髪を乱雑にかきあげる姿は、どう見ても中性的な美青年だった。


 そんなルイスの姿を隠し撮り、屋根裏でほくそ笑む者が一人……。


「おねーさんが名前教えてくれないから先にシャーロット嬢を探ってたら思わぬ掘り出し物が出てきちゃった。さぁて、この切り札どうやって使おうかな〜っ」


 現像されたルイスの写真片手に、腹黒ショタは狩へと向かうのであった。


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