第14話 ヒロインは隠しキャラの手のひらで転がる

 前世から、つけられるあだ名はウリ坊、マシンガン、特急列車とまぁ可愛げないものばっかりで、実際女らしさなんてものには無縁な私ですが。流石に今ばっかりは、女のコらしく悲鳴を上げてもいいんじゃないかと思うの。と、言うわけで。



「きゃぁぁぁぁぁぁっ!へんたーいっ!!!」


「ーっ!待ってくれ、誤解だ!!」


 青ざめた美少年が素早くシャツを羽織り私の口を塞ぐ。壁に背を押し付けられた振動で、棚に乗ってたシャーロット様のカバンから質の良さげな羊皮紙が一枚落ちた。


「……っ、そもそもここはシャーロットの部屋だろう?何故君がここに帰ってくるんだ!」


 人間、都合が悪いときは怒って誤魔化すのが常らしい。逆ギレ気味な美少年に押さえられて口がきけない私は、無言のまま落下したさっきの羊皮紙を指さした。


『すまないが予定よりも参加人数が増えた関係でシャーロットとミーシャ嬢には同室になってもらうことになった。よろしく頼む』


「ふざけるなあのお気楽王子が!!!」


 綺麗な青みががったインクで記されたライアン王子からの伝言用紙を怒り心頭の金髪美少年が思い切り握りつぶす。って……。


「だから貴方は誰なんですかーっ!!?」


 そう張り上げた私の声は、なぜだかこの部屋にだけ厳重に張り巡らされた防音材に阻まれて外に響く事はなかった。







「では服も着て頂いたので改めて……お名前は?」


「ーー……ルイス」


 軽く身なりを整え向かいのソファーに腰掛けた彼が仏頂面で短く答える。金糸のような髪をかき上げる気怠げなその仕草と冷え切った眼差しにキュンとした。さっきはバタバタし過ぎて確信が持てなかったけど、間違いない。駆け寄って陶器の様なほっぺを両手で挟み彼の顔をまじまじと見る。


「ーっ!いきなり何をするんだ、失礼な!」

 

「……シャーロット様と同じ顔」


 呟いた瞬間、ルイス様の肩が小さく揺れた。

 悪役令嬢と瓜二つの顔、聞き覚えの無い名前。ライアン王子と友達ときたらこれはもう答えは一つだよね!? 


「ルイス様はシャーロット様の双子のお兄様ですね!家名を名乗らなかったのは訳あってずっと留学しててこの国ではまだ表舞台に立ったことがないからでしょう。どうですか!?」


「……っ!人を指差すんじゃないこのウリ坊娘!入学当初から散々教え……っ」


「え?」


「いや、何でもない。意外と勘が鋭いね。それとも……君ではなく父君が聡いのかな?だとしたら、フォーサイス伯爵の評価を改めないといけないな」 


「はい!?いやっ、違います!!」


「なら、何故僕がハワード公爵家の者だと断言出来たのかな?」


 急に不穏な空気になりおった!!

 どうしよどうしよ!ゲームの発表前だったシークレット攻略キャラの特徴が貴方と同じだったからピンと来ただけです!なんて言ったら普通に頭おかしい奴ですよねーっ。ならばここでの答えは一択だ!


「それは私のシャーロット様への愛の為せる技です!!」


 声高にそう叫んだ途端、ルイス様は力なく頭を抱えた。


「……そう。野生の勘って奴ね」


「そこは女の勘って言ってくれます!?ま、いいですけど。それで?なんでシャーロット様が急に居なくなってルイス様がここに?」


「ーー……」


「あ、逃げようとしたら窓全開にして改めて悲鳴あげますからね」


 そっと目を逸らして立ち上がったルイス様が動きを止めてこちらを睨みつける。

 まぁ実際にはタオルも巻いてたし良い身体付きのイケメン(水も滴るエフェクト付)見ただけで冷静になってみれば美味しかったんですけど。まぁほら一応ね、私だって女のコですし!


「……本当、見かけに似合わず強かな女」


「それって可愛いって事ですか?」


「前向きが過ぎる!」


 そう叫んだ後に聞いたルイス様の言い分はこうだ。

 昼間は成り行きでミシェル様からの決闘を受けてしまったが、シャーロット様は今はまだ王太子であるライアン王子の婚約者。下手に戦って顔なんかに消えない傷でもおったりしたらシャーロット様本人はもちろん、ミシェル様と彼女の実家が責任を受ける事態になりかねない。

 でもミシェル様は乙女ゲームのライバルキャラ達の中でもぶっちぎりの暴走娘で説得は不可避。ならばいっそ替え玉を立てよう!ってことで、丁度帰国して王都に戻る前にこの領地で一泊してたルイス様が急遽呼ばれたんだそうだ。


「で、シャーロット様は迎えに来た馬車で公爵家に帰って、ルイス様はつけていた男物の香水の香りを落とした後にシャーロット様に変装する手筈だった所に私が来てしまったと」


「……まぁ、端的に言えばそうなるね」


 なるほどねー。私みたいな生粋のじゃじゃ馬と違ってシャーロット様は由緒正しい公爵家のご令嬢だもん。いくら鍛えてようが決闘なんておいそれと出来ないよね。元はと言えば軽い気持ちでブレイズ狙いにしてミシェルを焚き付けたのは私だったのに、巻き込んだりして悪い事しちゃった……。


「そんなに目に見えて落胆しないでくれないか。僕が虐めているみたいだろう?」


「ーっ!すみません!でも私、シャーロット様とルイス様に申し訳なく……て………」


 慌てて顔を上げると、淡々とした声音に反してルイス様はとても良い笑顔を浮かべていた。あ、この人腹黒枠だ、嫌な予感……!


「君にも普通の人間らしい感性があるようで何よりだ。あの二人は単に叩きのめしても余計に厄介になるだけだろうからね。そうならないよう、彼等には結ばれてもらうことにした。君にも協力して貰うよ?」


「はい!?いやあの、じゃあ私の婚約者探しは「諦めろ。君に色恋はまだ早い」辛辣!!」


「普段あれだけを振り回しているんだ。たまには君も振り回されればいい」


 シャーロット様と全く同じ長さのウィッグを被ったルイス様が、それはそれは良い笑顔で作戦用紙を取り出した。

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