第13話 想定外で定型内の邂逅
白塗りの木が爽やかなテラスに目の前に広がる真っ青な海。突然ですが私達は今、貴族のリゾート地と名高いコンキーリャ地方に来ています!
「夏休みだ!きらめく海だ!リゾートだ!!早速海に行きましょうシャーロット様!!!」
「騒ぎすぎです。演劇祭の褒美とは言えわたくし達は学園の代表として招かれたのですよ。もう二年生の夏休みなのですから少しは成長して節度ある行動をなさいな」
「はーい!」
海風に髪をたなびかせながらため息をつく美女、最高です。シャーロット様は二年生に上がってますますお美しくなられました!
そう、あの勘違い令嬢軍団の裁きのゴタゴタでだいぶ遅くなってしまったのですが、あの舞台に上がったメンバーに王家と学園からお詫びとご褒美としてリゾートへのご招待を頂いたのでした。
ちなみに、招く
「やるぞ!ライアン王子以外の攻略対象とのファーストコンタクト!!」
ライアン王子から打算しかない婚約を申し込まれてからと言うもの、まぁ事あるごとに絡まれて中々自由に動けなかった私。その為、学園にいる筈の他の攻略対象と一切接触が出来なかったのです。
だがしかし!ここコンキーリャ地方はリゾート地である反面、砂浜で足腰を鍛える為に騎士見習いの鍛錬場があるのだ。そこには未来の騎士団長候補であり攻略対象である先輩が居る筈!
「この日の為にシャーロット様とうちの騎士に剣を習って運動スキルも上げたのよ!そろそろ出会い条件は満ちてる筈だわ!」
メインヒーロー以外のキャラは、実は出会いの為には主人公に自分磨きをさせスキル値を高める必要があるのだ。騎士キャラは運動、天才キャラなら知能、後輩キャラなら優しさ、ライアン王子は上記3つに加え美しさの項目を含めたスキル値を100にしないといけない。
『卒業までに他の婚約者を見つけられなければ君は僕の妃だ』
ライアン王子が何考えてんのかさっぱりだけどそんなの断固拒否!その為にこの半年ちょいはひたすら自分磨きに専念してきたのだから。
(まぁ、愛の無い結婚は辛いし相手にも悪いから、実際あってみてじゃないとどうなるかわかんないんだけどね)
ゲームでは爽やか系お兄さんだったし、好感を持てる人だといいな。
「……シャーロットさまぁ、暑くないですか?」
とりあえず泳ぐのは明日にして今日は辺りを散策しましょうと言われて着いてきたは良いものの……隣を歩くシャーロット様の服装は長袖のワンピース!見てるだけでも暑いです!!
「何を言ってますの?貴女の希望で今から騎士見習いの鍛錬を見に行くのでしょう?令嬢たる者みだりに殿方の前で肌を晒したりだらけた態度を見せるのは品がなくてよ」
木陰の下で凛と背筋を伸ばして言い切るその姿はまるで一枚のスチルのよう。か、カッコいい……!
「私もシャンとします!」
キリッと背筋を正した私に、シャーロット様はほんの少しだけ微笑んだ。演劇祭以降大分態度も柔らかくなったし、これは本当に大親友エンド出来ちゃうかも!?
「(そしてシャーロット様との未来の為にもまずは婚約者探しを頑張らねば!)ほら、建物見えてきましたよ。急ぎましょう!」
「あっ!お待ちなさい!剣技が飛び交う場所に丸腰の令嬢が一人で飛び込んだりしたら……っ!」
浮足立って走り出した私は忘れていた。先輩騎士キャラと
ヒロインであるミーシャは、ある日教師に頼まれた物を届けに騎士科の鍛錬場に向かう。でも目当ての人物を見つけ駆け寄ろうとした瞬間鋭い金属音がして、鍛錬で弾かれた剣がミーシャに向かい飛んでくるのだ。
キィンッ……と耳を掠めた音で、ようやくその流れを思い出す。同時に見上げた先で、何かが夏の日差しを反射してキラッと光った。
(ヤバっ、避けなきゃ……!)
下がろうとしたけど足がもつれてその場に尻もちをついてしまう。迫ってくる切っ先が眩しくて、ぎゅっと目をつぶった。
ゲームでもヒロインは突然の危機に動けず目を閉じる。そして飛んできた剣は、駆けつけた先輩騎士が見事弾き返すのだ。
(あー……すっかり忘れてた。じゃあ焦んなくても大丈夫かぁ)
そう思考がまとまったところで、何かが蹴り飛ばされる鈍い音がした。
「ちょっと貴女!大丈夫ですの!!?もう、だから危ないと申しましたのに!」
「しっ、シャーロット様……!」
少し息の上がったシャーロット様が、剣を蹴り飛ばすためたくし上げていたスカートを下ろしながら私に手を伸ばす。
「シャーロット様ぁ!助けに走ってきてくれたんですか!?感激です!!素足で飛んできた剣を蹴り返してしかも折っちゃうなんて!すごいです、強い女性カッコイイです!!」
「ちょっ……抱きつくんじゃありません大袈裟な……!」
「いいや、大袈裟などではないぞシャーロット嬢!」
いかにも熱血系の大声に反射的に振り向く。声の主は真っ直ぐこちらに来て爽やかに微笑んだ。
「素晴らしい反射速度と蹴りであった、実に見事!女性でなければ是非手合わせを願いたい所だ。そちらの君も無事で良かった。俺はブレイズ・バーニングだ。よろしく頼む!」
スチルと寸分違わない陽キャスマイルと、鮮やかな赤髪とひまわりみたいな黄色の瞳に、シャーロット様のカッコよさでウキウキだった頭が一気に冷える。
(で、出会いイベントが変わってしまったーっ!!!)
本来ならブレイズに助けられるはずだったのをシャーロット様に守られちゃいましたからね私!案の定、剣術・体術馬鹿であるブレイズはさっきから満面の笑みでずっとシャーロット様にだけ話しかけ続けている!
「いやぁしかし見かけによらぬ脚力だ!護身術は何を?男兄弟は居ないのか?公爵令嬢なのが実に惜しい、君程の才能があれば女性騎士になれたろうに!よければ少し剣技を見せてくれないか、さらなる高みを目指す力になれるやも知れん!」
「結構ですわ。この子が剣を学びたいというから握っていただけで別段強さにこだわりがあるわけではございませんの」
「まだ本気で鍛えていなくてあの筋の良さか!それは素晴らしい、未来が楽しみだ!!」
「わー……、話を聞いてませんね」
「全くです、貴女が二人いるようですわ……!」
ってシャーロット様ソレどう言う意味ですか!?
そう抗議するより前に、私達の前から不意にブレイズが消えた。こちらに突進してきた騎士服の女性に蹴り飛ばされたのだ。
「ブレイズ貴様!未来の騎士団長が鍛錬場で女に現を抜かすとは何を考えている!」
凛々しくそう叫んだのは黒髪をポニテにしたスレンダー美人。騎士科初の女性騎士見習いであり、ブレイズルートのライバルキャラの……
「私はミシェルだ、あなた方も世間知らずの令嬢の気まぐれで男を誑かしに来るのは止めてくれ!悪趣味な……」
「なっ……」
「シャーロット様は誑かしてなんかいません!魅力的すぎて勝手に好かれちゃうだけです!迷惑してるんですから!」
背後から『その筆頭たる貴女がそれを言うの』というシャーロット様の圧を感じるけど無視無視!今はそれどころじゃないでしょう!早くしないと……
「……っ、ブレイズが彼女に好意があると?ふざけたことを言うな!」
「いやミシェル、間違いではないぞ!俺はシャーロット嬢と懇意になりたいと思っている!こんなにも一人の女性に心惹かれたのは初めてだ!」
そのブレイズの言葉にミシェルの背中から
そうして、案の定逆上したミシェルは私とシャーロット様に果たし状を叩きつけたのでした。
「はぁぁ……温泉も一緒に入ってくれなかったし、シャーロット様やっぱ怒ってるのかなぁ」
温泉で気持ちよく身体は癒やされても気は重いまま、指定された自分の部屋にいく。扉に手をかけたら何故か鍵が開いていた。
「えっ、なんで?まさかブッキングとか?」
なんだか恐いので音を立てないようにそーっと中に入る。お風呂上がりのこの流れ、恋愛物ならありがちだけど脱いでる相手と鉢合わせーなんてあったりして?
「なんてね、あははー」
「…っ、誰だ!?」
「キャッ!?」
鋭く飛んできた声に固まる私の目に、少し濡れた筋肉質な身体が見える。
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