第6話東城の思惑

「それで?昨日の坊やについて何かわかったのか?」

東城は襲撃された時、逃げる車に跳ねられそうになった少女を助けた高校生について調べるように秘書に指示してあった件を聞いた。

「はい。色々面白い事がわかりました。名前は朔田 蓮と言って都立高の3年生でした。彼は昨年あった菱丸銀行の立て籠もり事件の被害者の一人でした。」

秘書は銀行であった立て籠もり事件の事やその時話題になった蓮の生い立ちなどを詳しく報告した。

「ほう。あの坊やがね〜。それで?」

東城は面白そうに話を聞きそして続きを促した。

「彼についての報告は以上ですがね、もっと面白いのが、昨日彼の病室に来たあの外人なんです。」

「あいつは何者だ?」

「あの外人、朔田 蓮の保護者だそうです。」

「あの外人が?」

東城が不思議そうに聞き直した。

「はい。どういった経緯で保護者になったかはわかりませんでしたが、彼の名はアラン サフィールと言ってフランス国籍をもっているんですが現在は都内の弁護士事務所で働いています。

10年程前まではフランスで傭兵をやっていたと言う事がわかりました。ですが判ったのもそこまでで彼についても謎だらけのようです。」

秘書の話を聞いた東城は少し考えるそぶりを見せていたが、秘書にこの後の予定を変更する事を告げた。

「今から病院に行くぞ!」

秘書はすぐにスマートフォンを取り出すと車を手配した。


「面白いな。あの坊やの身のこなし方はそいつが仕込んだものかもしれないな。」

病院へ向かう車の中で東城は独りごちた。


病室にアランが顔を出した時、蓮はちょうど退院する為に着替えて荷物をまとめている時だった。

「アラン来てくれたのか?俺一人でも大丈夫だったのに悪いな!」

「退院の手続きなんかもありますから…」

歯切れの悪い言い方に蓮はアランを見上げると

「どうした?何かあったのか?」

「すみません。流星会の奴らに私の過去がバレたみたいです。」

アランはすまなさそうな感じで話し出した。

「実は、ネット上で貴方の名前や私の名前が検索されたらアラートが鳴る事になってるんですが、

誰かが私の過去を調べていたんで逆に辿ってみたら

流星会の会長の東城が経営しているネット会社のパソコンからでした。流れた情報は主に私の事のようで傭兵時代の事なんかもバレたみたいです。勿論貴方の事も調べていた様ですが、貴方についてはテレビに流れた事以外は大丈夫でした。」

「それなら多分俺のせいだ!又、アランを巻き込んで済まない。でも、どうせお前の事ならそこまでだろ?ネットで検索できることなんてどうせ大した事無いって!心配しなくてもいいさ!」

「でも…」

アランはまだこだわっている様子だったが、

蓮は何事も心配しないでも大丈夫とばかりにアランを伴いロビーにある支払い窓口へと向かった。


アランが支払いに向かってくれたので蓮はロビーのソファーに座って外を眺めていた。

刺す様な視線を感じ振り返ると、入り口からこちらへと向かってくる二人の男の姿が見えた。

東城 司とその部下らしい男だった。アランの資料の中にあった写真を見て知っていたが素知らぬ顔をしてまた外を眺める。

「やあ!君大丈夫だったんだね。よかった。」

その声に振り返って芝居をした。

「朔田 蓮君だよね?」

「はい、あの…」

初めて見た顔だという様なそぶりで返した。

その時支払いを済ませたアランがこちらにくるのがわかり蓮はアランへと視線を移した。

蓮の視線の先を見た東城がアランに声をかけた。

「昨日はどうも!」

アランが東城に声をかけた。

「蓮、こちら昨日病院に付き添ってくれた方だよ。」

アランも芝居をうつ。

「あ、ありがとございました。俺全然知らなくて。助かりました。」

東城はアランと蓮を探る様に見つつ微笑んだ。

「私は東城 司と言います。」

名刺を出しアランに渡した。アランも東城へ名刺を出した。

お互い探る様に名刺と相手の顔を見てアランが問うた。

「今日はどうされたんですか?」

「いや〜蓮くんのお見舞いにと思って来たんですが退院なんですね?」

「大した怪我じゃなかったもんで。この通りもう追い出されました。」

お互い顔には笑みがあるものの目は笑っていない。

「失礼ですが、随分と日本語が上手なんですね。ほとんど外国人特有の訛りがないものだから、日本にはもう長いんですか?」

「いえ、日本に興味を持って頑張って覚えたんですよ。それに、蓮が教えてくれますしね。」

「昨日、彼の保護者と伺ったんですが彼のご親戚ですか?」

東城が興味津々といった様子で聞いてきた。

「親戚ではありませんが、ちょっとした事情があって保護者をしてます。すみません、これから行くところがあるので。」

アランは東城の質問を終わらせる為用事があると断った。

「それは失礼しました。」


東城が見舞いにと持ってきた花や菓子箱を差し出したのを受け取ると礼を述べ、ではと蓮と共に去る瞬間「もし良かったら送りますよ。」

東城がアランに提案した。

「いえ、私の車がありますから。お気遣いありがとうございます。」

そうしてその場を後にした。


東城は去っていく二人を見ながら秘書に二人の身辺調査を命じた。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る