第40話 傭兵と悪役令嬢 互いを思う
私はひどい女だ。婚約者であるラピスの事よりも、コーネリアスが生きて帰ってくる事の方を心配すると思えるくらいには。
婚約者が死んだ場合その兄弟と結婚すべきなのだろうけどそれはしたくない。マイクは結婚するにはあまりにも幼すぎる。多分彼は結婚の意味もまともに分かってないだろう。
私は本当にひどい女だ。ラピスの国葬では全く涙を流さなかったくせにコーネリアスが無事に帰ってきたことに関しては涙が出るくらい嬉しかった。
マルゲリータに操られていたとはいえ、戦死してしまった婚約者に対してここまで薄情な仕打ちをしていいのだろうか?
こういう場合「死んだ恋人にとってはあなたが幸せになることが一番良い事だよ」とは言うが本当の事だろうか?
コーネリアスも「死んだ人間の分まで生きないとそいつは無駄死にした事になる」と言ってたし。
ラピスの国葬直後で気持ちの整理とでもいえるものが出来てないが、心の中ではできればそうであって欲しいというのはある。
でも私が幸せになるということは、ラピスから離れることになりかねない。
だって私が居て一番幸せな場所はコーネリアスのそばだから。それだとあの世にいるラピスにとっては私が自分から離れることになる。彼はそれを許してくれるだろうか?
……お父様、それにラピス、私はどうしたらいいの?
「恋する女はキレイになる」とは言ったもので、最近のエレアノールは美しさにさらに磨きがかかっているが、その恋は俺にとってはあまりにも重たすぎる。よりによって彼女が惚れた相手が俺だからだ。
俺は準爵の子で、相手は辺境伯の娘だ。身分差の恋なんて
小説では身分の差をいともあっけなく乗り越えて結ばれるという話が受けているが実際は教養の差や常識の違いに振り回される事うけあいだ。
身分差の恋なんて小説や劇で十分だ。現実にやると……疲れるだけだ。
あんなものしょせんはフィクションの話だから良かったね、で済まされるところを実際にやるとなるとお互いの家を巻き込んだ大騒動になるはずだ。物語の都合上省略されたり見ないふりしているところもガッツリ見る羽目になる。
それに周りが許してくれない。俺の場合はエレアノールの家族、要は辺境伯殿をはじめとしてドートリッシュ家の周りの爵位持ちがどう言い出すか分かったもんじゃない。俺がけなされる分には耐えられるがエレアノールも俺と同じくらい小ばかにされてしまうだろう。それは耐えられん。
俺と結婚することで余計な苦労を背負わせてしまう位なら俺の事なんてさっさとあきらめてマイク王子と結婚してくれた方が彼女にとっても俺にとっても幸福な選択肢だ。
そう、迷惑をかけたくない。俺なんかのために余計な苦労をかけさせたくはない。そうさせるくらいなら俺が消えてしまった方がいいに決まってる。
しょせん俺は一介のボディガードで、それ以上でもそれ以下でもないし、それ以上やそれ以下になってはいけない。
もう俺は20を超えてしまっていて、夢を見るには年を取りすぎてしまった。もう女でいう白馬の王子様をのんきに待てるような年ではない。
本音を言えばエレアノールみたいな美女が俺に惚れているというのは男としてはかなり嬉しい。だがその恋は身分違いの禁断の果実だ。それを食ったらどうなるか分からないほど俺は馬鹿でも能天気でもない。
背伸びしたって良い事なんてない。身分相応の恋をしたほうが良いに決まってる。できればこの恋は……終わってほしい。その方がお互いにとってもいい結果になるだろうから。
【次回予告】
彼女は身分の差を気にせずに彼に迫る。
第41話 「悪役令嬢、傭兵に迫る」
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