第25話 アンドリュー、稽古を行う
花壇の広がる屋敷の中庭で男2人が剣を構えて向き合っている。お互いに金属の鎧を着こんでおり、片方の鎧はピンク色の派手な物であった。
互いに踏み込み何度か剣を交える。金属と金属とがぶつかり、こすれあう硬質の音が辺りに響く。
そしてピンク色の鎧を着た男が相手の攻撃を避け、カウンターで相手の胴体に渾身の一撃を叩き込む! 相手はぐらりとバランスを崩し尻もちをついた。
「いてててて……ふぅ。どんな感じでした?」
相手は大したケガは負ってないようで足取りは軽く、スッと立ち上がりながらアンドリューからのアドバイスを聞く。
「やっぱりお前は動きがかなり単調だな。読まれたら一気に崩されるぜ。もう少し攻撃手段にバリエーションを持たせたほうが良いぞ」
「そ、そうですか。自分でもうすうす気づいていたんですが、やっぱりアンドリューさんから見たらバレバレなんですね」
「まぁな。剣の基本や太刀筋自体は悪くないから……例えばカウンターの練習をしてみるといいんじゃないのか?」
「そ、そうですか。ではカウンターについて教えてくれませんか?」
「別にいいけど、そこは別料金になるぜ。金をもらわんと教えてやらんぞ」
「そ、そうですか……」
(ん? あいつは、アンドリューか? 何してるんだ? トレーニングか?)
休みの日、酒場に行くのも早すぎるであろう時間帯のため時間つぶしのために屋敷の中を見回っていたら偶然アンドリューと出会った。
お互いに剣を向けあっていたが雰囲気は和やかでおそらくは
「ようアンドリュー。剣の稽古に付き合うなんてずいぶん先輩じみた部分があるじゃねえか。雨でも降るんじゃねえのか?」
「オイオイコーネリアス、さすがにそいつは言い過ぎなんじゃないのか? まぁもらった以上は頼まれ事を拒否するほど腐ってはねえさ」
どうやら相手から金をもらって訓練に付き合っているらしい。まぁそんなところだろうとは思ってはいたが……傭兵が仕事のタネをタダで披露するとは考えにくいし。
「ところでその剣、真剣(本物の剣)なのか? 普段の物じゃなさそうだが」
「ああ、こいつは訓練用の物だよ。グスタフさんに頼んで持ってきてもらったものさ。真剣なんて使ったら万が一の時危ないだろ?」
彼の言う通り、2人が持っていた剣は訓練用の物で刃がついていないものだった。
もちろん訓練用とはいえ「1キログラム程もある鉄の塊」ときたらそれだけでも鈍器として十分すぎるほどの殺傷能力はあるが、鎧を着こんでおり互いに傭兵という剣のプロが使う分には十分安全だろう。
「それにしてもお前が剣を教える立場に回るとはなぁ。時代は変わるもんだな」
「まぁこの辺じゃ俺も古参のベテランだからなー。コーネリアス、お前も弟子の1人くらい採ったらどうだ? 俺も昔弟子を採ってたけどなかなか便利なものだったぜ? 育てなきゃいけない義務感ってのがあったけどな」
「遠慮しとくよ。剣とは違って魔法は弟子を1人前に育てるのに時間も苦労もかかるからな」
アンドリューは俺と同じ時期に傭兵になったほぼ同い年の男で、かれこれ8年以上も生き延びれているからその腕は本物だ。
オフの時の彼を見て悪い意味で印象に残っている俺とは違い、一般的にはなかなかどうして優秀な剣士で見た目も良いという印象が強いのだそうだ。
「あなたたち、3人集まって何してるの?」
そこへエレアノールがやってくる。
「これはこれはお嬢様、何のご用件で?」
「音が聞こえたから何だろうと思って来てみたの。何してるの?」
「稽古だそうです。2人で実践訓練をやってたそうですよ。俺はお嬢様みたいにたまたま通りがかっただけです」
「ふーん、そう。別に構わないけど花壇を踏まないでね」
「ああ大丈夫です。そこだけは気を付けてますんで」
そう言って彼女は去っていった。それを見届けた後、アンドリューの野郎は鼻を動かす。
「んはぁ~~~やっぱお嬢様の香りは最高だなぁ~~~、んあ~~~いい匂い~~~~~~~~」
コイツときたらまた
「アンドリュー……お前またやってんのか。懲りねえ奴」
黙って立ってりゃ男である俺から見ても割とイケメンな見た目なんだが、ある種変態に近い無類の女好きというのが大きなマイナスだ。
これさえなければ俺も1目置く存在になれたのだが、まさに「玉に傷」というやつだ。
【次回予告】
コーネリアスは夕食を取っていた。それには辺境ならではの自然の恵みもあった。
第26話 「傭兵、夕食を取る」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます