第24話 魔導学院長、探りを入れる

「ふむ……。儀式は無事に終わったようだな」


 時間は少しさかのぼる。


 マルゲリータのみそぎの儀式が終わった後自宅に帰る途中の魔導学院長、テラは無事に終わったことに安堵する。その瞳は生気を保ったままだった。


(あれは魔力増幅作用はあるが体内にとどまり続ける力は低い。2~3日もすれば完全に出ていくはず。魔力を増幅しろというリクエスト通りにはなってるからいいだろう)


 彼は一見するとマルゲリータの魔力を身体にまとい、彼女の配下であるように見えていたが、それは表向きであり実際には彼女の動向を探っていた。いわゆる2重スパイとでも言える立場だ。

 彼女と親密な距離を保ちながら尻尾はつかもうとしているがなかなかうまくはいかない。だが、最後には必ずつかむつもりだと決めていた。

 



 みそぎの儀から1週間後……例によって国王主催の会議で地方領主が集められた日の事。

 これまた例によって王侯貴族の御子息、御令嬢が客間に集められていた。


 マルゲリータは本来なら魔力と魔術に長けるエルフにしかできないという、魔力を可視化する能力でラピス王子を見る。

 彼からは自分の魅了の魔力がカケラたりともないことが分かった。成人の儀に招いたほかの連中も同じように、彼女の魔力は皆無だった。


(!? どうなってる!?)


 マルゲリータは大いに疑問を抱き、そしてその聡明そうめいな頭ですぐに犯人を突き止める。


(あの野郎、しくじりやがったな!)


 頭に浮かんだのは、モノクルの眼鏡をかけ白いひげを生やした枯れ木のように痩せた老人……魔導学院長、テラその人だった。




「ふっざけんじゃねえぞクソジジィ!」


 翌日、アポなしで学院長室に乗り込んだマルゲリータが開口一番、そう言って部屋の主をぶん殴る。


「オイジジィ! テメェのせいで計画が台無しになっちまったじゃねえか! どう責任取るつもりなんだ!? ええ!?」

「お言葉ですが、魔力を増幅しろとはおっしゃいましたが持続力を弱くするなとは申されていないから、リクエスト通りにはなっているとは思います。

 何せ増幅した魔力はコントロールが難しくてすぐに消え去ってしまう物でして……」

「そこを何とかするのがお前の仕事じゃねーのか!?」

「こればかりは私にもどうすることもできなかったことでして……」

「チッ。肝心なところで使えねえな……まぁいいや。次の機会があったら頼むわ。今度はしくじるなよ」

「ハッ。かしこまりました」


 本当のことを言えば、魔力を増幅しつつ持久力もそのままにすることはできた。だが今回のみそぎの儀式で使った魔力増幅装置により強化された魔力が体内に留まる力をなくしたのは被害を抑えるためにわざとやった事だ。

 幸い、マルゲリータにはそのことはばれてなさそうだ。



 マルゲリータと入れ替わるように、秘書が部屋の中に入ってくる。


「テラ様、何かございましたか?」

「特に何もない、安心してくれ。それと、証拠集めはどうなってる?」

「マルゲリータ嬢とイザベラとの関与を示す証拠はそれなりに集まってはいます。ただ推定できる範囲内で、確固たる証拠はまだ挙がってきていません」

「そうか、分かった。引き続き調査を頼む」

「かしこまりました。それとあと15分後に会議の予定です。準備をお願いします」

「ん、分かった」


 余計なことはせずに要件だけをまとめて言ってくれる有能な(少なくともテラにとっては)秘書の後姿を見ながら彼は一人ごちる。


「やれやれ。あのマルゲリータ嬢とイザベラの奴を何とかしない限り、当分の間は安心して死ねんな」


 彼は普通の人間からすれば十分長生きしており、後はどうやって人生を締めくくるか? を考える立場にいた。

 学院長の後任も既に内定しており、家族にもいつ死んでもいいように死後の手続きを前もって進めてはいるが、マルゲリータとイザベラがいる今ではとてもじゃないが穏やかに眠る事はできないし、何とかする前に死んでしまったら「悔いのある人生」になってしまうだろう。


 全く、神というのはまだまだ自分を働かせたいつもりらしい。テラはそんな運命を呪いこそしないが難儀なものだと思いながら執務を続けるのであった。




【次回予告】

先輩風を吹かせるアンドリュー。その日は彼らしくも無い先輩らしいことをしていていた。


第25話 「アンドリュー、稽古を行う」

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