第9話 傭兵、仕送りを出す
休みの日に屋敷の周りに広がる町へ行くと、アンドリューと出くわした。ピンク色の鎧を着こんでいるのか街中でもやたらと目立つ。
「お、コーネリアス。お前も休みか?」
「まぁな。やることはあるがな」
「そうかそうか。俺もヤることがいっぱいでさぁ。ガハハハ」
まだ午前中だというのにこのドスケベ変態野郎は下ネタをぶちかます。
こいつときたら本能にどこまでも忠実な男で稼いだ金の大半は酒、バクチ、女に消えるというありさまだ。残念ながら貯蓄や計画性という言葉は、こいつの辞書にはない。
将来の事を考えない代わりに悩みやストレスなどは皆無でおめでたい奴だ。絶対に見習うべきではないが、ある意味うらやましい。
「オメェはいいよなぁ。稼いだ金を全部酒と女につぎ込めて。俺なんて実家への仕送りをしなきゃいけねえんだぞ?」
「オイオイオイオイ、コーネリアス。口がなってねぇなぁ。前も言ったが俺は先輩でお前は後輩なんだぞ?」
「ヘイヘイ分かりましたよアンドリュー先輩殿。先輩は派手に金を使えて御大層な身分でございますね。って言えばいいのか?」
このあたりの娯楽といえば垢ぬけない田舎娘しかいない
俺みたいに実家に仕送りする真面目な奴は砂漠における真水みたいに希少な人物だ。
「コーネリアス、お前はまじめな男だなぁ。実家に仕送りだなんて親が泣いて喜ぶぞ?」
「勘違いするなよ、俺は親のために仕送りやってるわけじゃあないんだからな。じゃあ俺は行くから」
「おう、いってらっしゃーい」
アンドリューと別れた俺は冒険者ギルドに顔を出した。
「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」
「小切手の発行、それとその送付をしてくれ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付嬢は慣れた手つきで小切手の発行と郵送の手続きに入る。見た目は俺よりも若い、というよりは幼いくらいの年だが結構なベテランに入ってもおかしくないほど動きが洗練されており無駄がない。
辺境伯の屋敷の前だから見栄を張るためにレベルの高い受付嬢を呼び寄せているのかもしれない。内部事情には詳しくないので「当てずっぽう」なのだが。
「ではこちらの書類に必要事項を記入してください」
渡された書類に必要事項を記入する。俺も何度もやっている事なので慣れたものだ。送り先である実家の住所と送金する額を書き込む。
冒険者ギルドというのは「武装した郵便局員」が始まりとされる。それが貯蓄や人材派遣などの副業務をいくつか取り込むうちに現在の形になったそうだ。
今でも各地への送金や行政文書に公文書を運ぶのが主な目的かつ重要な仕事とされており、特に信用度の高い上級の冒険者は郵送あるいはその護衛の仕事をしているという。
手紙や小切手を送るだけで大金をもらえるとは御大層な身分だ。俺もその恩恵にあずかりたいものだ。
記入が終わり、代金とともに書類を渡す。
「じゃあいつものように送金を頼むわ」
「はい。お預かりいたします。あ、そうそう。コーネリアス様宛にお手紙が届いております」
そう言ってギルドの受付嬢は俺に手紙を1枚渡す。差出名を見ると俺の妹になっていた。内容は、おそらく親が書かせたり修正させたのであろう年齢にしては妙に大人ぶって固い表現の内容で、ついでに言えばもっと送金額を増やしてくれというお願いもついた文章だった。
俺の親ときたら俺が弟や妹のために稼いでいるのを知っててやっているんだろう。相変わらず卑怯な連中だ。
親に対しては良い感情は無い。俺の事をろくに愛情を注がずに育てたくせに、次男坊なのもあってか半分口減らし目的で家のために稼いで来い。と13歳で家を追い出され、傭兵として働く羽目になった。
そんな実家には義理もクソもあったもんじゃないが、何も知らない2人の弟に4人の妹をひもじい思いをさせるのは兄としての仁義や人情に反する。
そういうわけで仕方なく仕送り「してやってる」というのが今の俺の立場だ。もし弟や妹がいなければとっくの昔に家族を見捨てていただろう。その程度の仲だ。
やることを終えた俺は今後の予定を埋めていく。とりあえず昼メシにした後は材料を買ったり発注した部品を受け取るなりして午後はアミュレットの作成だ。
結構な量発注されてるし、相手が相手だからあまりにも遅いと問題だろうから手際よく作ることにしよう。
【次回予告】
エレアノールの味方の一人である魔導学院の院長。
彼にコーネリアスの紹介もかねてあいさつに行くことになったのだが……。
第10話 「傭兵、魔導学院長に会う」
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