第8話 悪役令嬢、傭兵に告げる
「来てくれてありがとう。昨日の事なんだけど、マルゲリータは特殊な能力を持っている。「魅了スキル」って言って周りの男たちを魅了して意のままに操れるらしいわ。
幸いまだ王家の者には息がかかった人はいないけど、このままだとそのうち、ラピスも魅了されると思う」
彼女は真剣な面持ちでやってきた俺に告げる。
魅了スキル……? 聞いたことが無い魔法だ。その辺の素人とは違ってかなり魔法に精通している俺ですら、だ。
何故俺ですら分からない「魅了スキル」なる物があるか、またどうやって知ったのか。肝心な部分は教えてくれなかった。
金や銀、宝石で彩られた化粧台、
式典用の豪華な衣装から普段着まで収納されているウォークインクローゼット、
金や銀などで装飾されている高級木材で出来た家具。
通された部屋はこの辺のお貴族様の中でもかなり上の方と考えると、妥当なものだった。内装品からみてもエレアノールの階級の高さがうかがえる部屋で俺たちは話をしていた。
そこで出てきたのは「魅了スキル」なる謎の能力だった。俺の疑問が晴れないまま、彼女の話は続く。
「私も上手く説明できないけど、とにかく周りの人を魅了して思い通りに操る能力なの。かなり危険な力よ」
「彼女が犯人だってわかっているのなら、知ってて何故止めないんですか?」
「誰にでも分かる証拠がないのよ。彼女が元凶だという確固たる証拠がないの。私も何とか尻尾をつかみたくて色々手を回してるけどどれも今一つなの」
「そうですか……ん、ひょっとしてお嬢様が過剰気味にボディガードを雇ってるのもマルゲリータが原因で?」
「そうよ。彼女が王家を乗っ取る前に少しでも味方を増やしたかったの」
なるほどそういう事か。少しは謎が解けた。
「一応俺には彼女が何かしらの魔法を……その、「魅了スキル」とか言いましたっけ? それを使ってる事は分かりますが、傭兵1人がどうこう言ったところでたかが知れてますな」
没落したとはいえ一応は貴族の家出身でボディガードという立場だが、しょせんは傭兵。俺の言う事に耳を傾ける者は、いないだろう。
「今のところ対策を立てるとしたら……
「ええっ!? それ自作したの!?」
エレアノールは驚きながら俺の
傭兵は大抵こういった「副業」を1つは持っている。仕事が無い時やケガをして戦場に出れない時、または引退した後の生活費をひねり出すためだ。
現役の時にこっちの方が面白くなってきて、傭兵を引退する。という奴も結構多い。
「ええ。効果は俺が保証します。何せ俺お手製ですからね。材料費と手間賃を加えて……こんなところになりますが?」
「高すぎない? 手間賃取り過ぎじゃないの?」
「これでもお嬢様向けにかなり割引していますよ? 本当に効果があるからその辺の気休め程度な偽物のお守りに比べれば高くなるのは仕方ありませんよ」
「ふぅ。分かったわ。貯めてたお小遣い使うから私とお父様とグスタフとボディガード達、それに王家の人の分、それと予備で4~5個作ってちょうだい」
「分かりました。ではお作りいたしますね」
俺は席を立った。
多少割り引いた(本当はもっと安くもできたが怪しまれない程度には吹っ掛けた)とはいえ、かなりのカネが転がり込んでくる事になった。
酒場での豪勢なメシと酒が待っているとなるとやる気も出る。早速作業に取り掛かる事にしよう。
「!? オイ、コーネリアス! お前、こんなところで何してるんだ!? 何かあったのか!?」
エレアノールの部屋から出てきたところを偶然アンドリューに目撃されてしまう。こうなると厄介だな。
「? 特にこれと言ったことはないけど? ただお嬢様が俺と話したいことがあるから来いって言われて来ただけさ。何もやましいことなんてしてないからな」
「まさか2人きりでいかがわしい行為に及んでるとかじゃねえだろうなぁ? っていうか男と女が同じ部屋に入るなんてヤる事と言えば1つしかねえだろうが……」
「オメーはいつもそういう発想になるんだよなぁ。いい加減改めたらどうだ? そんなことがばれたらこの仕事なんてやってらんなくなるどころか俺の実家が潰されるじゃねえか、少しは考えろよ」
こいつとは元勇者様のパーティにいたせいかしばらく会ってなかったが、口を開けば
黙って立ってりゃ男である俺から見てもそれなりに様になるんだが口や脳みその思考回路で損をしている。
「馬鹿は死ぬまで治らない」という昔の人の発想は正しかったというわけだ。
【次回予告】
その日は休日。でもコーネリアスにはやることがあった。
第9話 「傭兵、仕送りを出す」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます