第7話 チート転生者のプロローグ

 私が地球ですごした42年の人生で学んだこと、それは「人間、見た目が10000割」ということ。


 10割をはるかに超えるのは、美人は実力以上の評価がされる一方で、ブスは実力を過小評価されるからだ。

 美人は取引先を失うという会社にでかいダメージが入るくらいの大失敗をやらかしても許される一方で、ブスは伝票を書き損じただけでも烈火のごとく叩かれる。


 犬や猫を殺してはいけないのは可愛いからだ。可愛い生き物は殺してはいけない。

 逆に言えばブサイクはいくら殺しても良い。となるし、実際私は社会的に抹殺され続けてきた。


 ブスには褒められようが叱られようが関係なく「話しかけられたことそれ自体が不愉快」で「会話の内容なんてどうでもいい」一方で、

 美人は「褒められれば嬉しくて怒られればご褒美。愚痴を吐き出されても話しかけられたことそれ自体が楽しい」となる。


 ブスは計算をほんの少し間違えても怒鳴り散らすほどの罵声ばせいを浴びせられるが

 美人から「アタシ計算できなーいミ★」って言われても男どもは喜んで代わりに計算をしだす始末だ。


 ブスは何をやっても無駄だ。地球上で呼吸する事さえ許されず、存在することそれ自体が不愉快だ。

 日本から出ていけ。無理なら死んでしまえ、自殺しろ。それすら出来ないというのなら永遠に視界に入らないでくれ。みんなの本音を言えばこうだ。


 許せねえ。何もかも許せねえ。

 こんな顔になったことも、こんな顔を許さねえ周りの人間全員、それに私の事なんて関係なしに美男美女で人生イージーモードで過ごしている連中、全部だ。


 それからというもの、爆発物に関する資格を取り爆薬の入手に成功した。

 復讐だ。これは私を拒絶する人類に対する復讐だ。




 決行当日。

 その日、秋物コーデをした美形たちが我が物顔で歩く原宿の雑踏の中にまず爆竹に火をつけ、投げる。

 バババババン! というけたたましい音が辺りに響いた。


 これはいわゆる「撒き餌」。写真を撮りたがるリア充共をおびき寄せるためのエサだ。

 予想通り「何事だ?」とスマホ片手に人が集まり始め、写真を撮り出す。

 そのヤジ馬相手に本命である爆弾を構える。


「リア充爆発し……」


 爆弾を投げようとした瞬間、汗で手が滑った。投げようとしたものが、ぼとりと足元に落ちた。その直後、全身の感覚が一瞬で無くなった。



◇◇◇



 真っ暗なのに周囲は良く見えるという、ふしぎな空間に私はいた。ここはどこだろう?

 そう思っていると白いローブの様な服を着た少年がいきなり目の前に現れた。


「誰!?」

「誰って、僕の事? そうだなぁ。君たち人間で言えば『神様』って言えば一番わかりやすいかな?」


 その少年は、自分は神だと名乗った。異様な空間に異様な登場の仕方、なぜか妙に納得がいった。


「そ、そう。ところで私はどうなったの? まさか、死んだの?」

「うん、そのまさかだ。君は死んだよ。酷い人生だったね。まぁ少しは同情するよ。来世は……お、魅了スキルで……なんだ? イージーモードな……?」

「まさか、『魅了スキルでイージーモードな玉の輿にのっちゃいます!』だったりする?」


 私が愛読しているWEB小説だ。来世で何故これが出てくるのかはわからないが。


「うん。それだね。その中の主人公のマルゲリータとして生きれるみたい。良かったね」

「へー。小説の中に入れるわけなの?」

「いや、違う。人間の想像力ってのは凄くてねぇ、ごく稀にだけど物語の世界そっくりの異世界が創造されるときがあるんだ。今回君が転生する世界はそれで作られた世界っぽいね。結構運がいいほうだよ君は」


 ゲームや小説の世界に転移するお話が受けているがそう言う裏事情もあったのか。これまた妙に納得がいった。


「じゃ、じゃあチートはあるかな? お話の中ではあったけど……」

「あー、その辺気になるもんね。大丈夫、それもきちんとあるよ。あ、そうそう。くれぐれも与えられる能力を悪用することだけは辞めてくれないかな? その能力はか弱き誰かのために使ってほしい。

 決して私利私欲の為だけに使ってはいけないよ。最悪運命が変わっちゃうよ? 人間の運命ってやつには僕にすらどうすることも出来ないから、私利私欲に走って破滅しても文句言わないでくれよ」

「は、はい。わかりました」


 ンなわけねーだろボケ!! イケメン共への復讐に思う存分使わせてもらおう。



◇◇◇



「はーっ。今日の私も最高だわー」


 異世界に来て14年。この生活にもすっかり慣れた。

 起きて寝間着からお召し物を着せかえられた後(もちろん自力で着替えるわけではなく、メイドの手によるものだ)、毎朝鏡を見るのが何よりも楽しい。


 クリクリとしたエメラルドブルーの瞳と太陽の光の様なブロンドの髪、スッとした鼻という整った顔に豪奢ごうしゃなドレスが組み合わさるとドール人形のように愛らしい少女になる。

 その自分の姿を鏡越しに見るのが何よりも楽しい。こんな愛らしい美少女が私だなんて!


 しかも私は『魅了スキルでイージーモードな玉の輿にのっちゃいます!』の主人公マルゲリータ。魅了スキルだって持ってるから男どもは全員私にひざまずかせることだってできる。

 もちろん王子だってそう。15歳であのエレアノールから王子を奪って結婚、死ぬまで幸せに暮らし続けることが確約されている!


 おまけに転生者の特権として剣の腕も魔法の腕も一流だ。もちろんどちらも表向きには護身術程度にしているけど実際には戦場の最前線で無双できる位には強い。


 いや~長かった。自分でも言うが、痛みに耐えてよくここまで我慢できた! 感動した!

 これからはオレの時代が始まるぜ! 全てはオレの前にひざまずくのだ!


 ウヒャハハハハハハハアハhッハアハハlkひうgdせtsてlkgcざ!!!!!




【次回予告】


マルゲリータの魅了スキルを正体はわからなくても退けられるコーネリアス。

それに目をつけてエレアノールが自分が知っていることの一部を話す。


第8話 「悪役令嬢、傭兵に告げる」

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