第6話 傭兵、改めて彼女と出会う
「? 何だあの馬車」
お貴族様が城へ招集された日から10日後。
ドートリッシュ家の物に比べれば地味だが、それでも基礎のフレームの素材から装飾に至るまで相当な高級品で出来た馬車が屋敷の家の前に止まったのが窓から見えた。
「ふーむ。あれはイラーリオ家の馬車だな。おそらくマルゲリータがエレに会いに来たんだろうな」
俺の後ろから不意に白を基調としながらも所々が赤く塗られ、また金の刺しゅうが施された夏用の軍服を着た男の低い声が聞こえた。
「う、うわっ! ドートリッシュ辺境伯殿!?」
「ははっ、どうだ。気配を隠すのが上手いだろ?」
「勘弁してくださいよ。心臓に悪いですって」
そういえばアンドリューの奴から「辺境伯殿は気配を隠して後ろから声をかけて驚かせるのが特技で楽しんでいるそうだ」と聞いていたが本当にやられるとは……実に心臓に悪い。
「そうだ。念のためエレのところへ行ったらどうだ? 欠員が出てると聞いたが?」
「わ、分かりました。行きますね」
こういう人間は怒らせると何をしでかすか分からないタイプだ。素直に従って俺はエレアノールのもとへと向かう。
「久しぶりね。マルゲリータ」
「エレ、会いたかったよ」
俺がやってきたときには既にマルゲリータは馬車から降りてエレアノールと談笑していた。
マルゲリータが俺に気づいて近づいてきた、その時だった。
「? 何かしら?」
俺が首からさげている人の顔を模した異国の民俗信仰を思わせる、木製のアミュレットのガラス玉で出来た目が光り出す。何かしらの悪意ある魔力を検知した事を知らせるサインだ。
マルゲリータから距離を置くと光が消え、近づくとまた光り出す。もしかしてこいつが?
「エレアノールのボディガードさん? それ、何なの?」
光り出した
「いやぁ~コイツと来たら惚れっぽくって、美女を目の前にすると光り出すんですよ、これが」
「あら、お上手ね。でもエレアノールに対しては光らないのは何でかしら?」
「そんなの決まってます。マルゲリータ様がどこかに翼を置き忘れた天使だからですよ」
「ふふっ。ありがとうね」
俺は舌先三寸の話術で軽くいなす。この口先は傭兵稼業や冒険者稼業においては、主に商人を言いくるめて消耗品を安く調達することや、その他の交渉事などにずいぶん役に立っている。
彼女がエレアノールと一緒に彼女の部屋へと入っていく。とりあえずやり過ごせたようだ。
「……あの女、臭いな」
俺は一言つぶやく。
こりゃ面倒で厄介なことになりそうだな。俺の直感がそう伝えていた。
「なぁコーネリアス。マルゲリータの事どう思うよ?」
今日は勤務の日で俺より先にマルゲリータと会っていたアンドリューが唐突に声をかけてくる。
「何だよアンドリュー、いきなりそんな話題振って。俺は別に何とも思ってねえけど」
「2~3度しか会ってねえけどありゃ相当イイ女だぜ。胸がキュンキュンするよ」
「げ。なんだお前ロリコンかよ。そういうのもいける口かよ」
マルゲリータは人間というよりはお貴族様の幼女がかわいがってる人形のような見た目で、愛らしいとは思うが見た目が幼すぎてまともな人間ならば恋愛の対象には入らないはず。
この野郎は女に関してはえり好みをしないとは聞いてはいるがこんな奴まで対象になるのか……コイツの女好きには頭が下がる所まで行く。
さすがにエレアノールと同い年とはいえ、あの見た目が「女」というよりは「女の子」といった方が正しい部類に入る女が好みのロリコンというわけではない。
俺としてはもう少し背が高くて色気の一つもないと性欲が湧くという女として見ることが出来ない。
以前噂話ではアンドリューは「10歳から35歳まで」が女の射程圏内らしいとは聞いていたが本当だったとは。聞いた当初は「アイツらしい噂話だな」と軽く流していたんだが……。
その後、特に目立ったトラブルなどは無く無事にマルゲリータが帰った後、エレアノールは俺に問いただしてくる。
「コーネリアス、何なのその首飾り、あの時光ったけど?」
「あの女、臭いますよ」
「何か分かるの?」
「マルゲリータでしたっけ? 彼女は何の魔法かまでは分かりませんがとにかく何かしらの魔力を使って何かをしています。大抵は悪い方ですけどね。
俺は特に隠す必要もないためアミュレットに関して端的に解説する。
「なるほど。そこまで見破れるのね。明日、あなただけに話したいことがあるわ。昼間に私の部屋に来て」
「ええ!? あ、はい。分かりました。じゃあ昼食前に伺いますね」
突然の「自分の部屋に来い」というお達しに一瞬驚きながらも、俺は冷静に返す。何が待っているんだろうか……。
【次回予告】
42年の人生で学んだこと。
それは「人間見た目が10000割」ということだ。
第7話 「チート転生者のプロローグ」
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