第43話 傭兵、過去を語る

「お前の目おかしいよ。左右で違うなんておかしいんじゃないの?」

「そうだそうだ。おかしいおかしい」

「うるせー! 俺だってこんな目で産まれたくなかったんだよ!」


 俺は近くに住む男爵の子供にからかわれる。


「うわー準爵って口も柄っも悪ーい。身分が低いと態度もわるくなるんだなー」

「お前だって大して違わねえだろ!?」

「俺は男爵だぜ。だ・ん・しゃ・く! 準爵とは違うんだよ」

「俺も男爵だぜーイェーイ!」


 爵位マウントをとる幼馴染共に俺はブチ切れる。


「テメェらいい加減にしろ!」


 そう言ってそいつの髪を引っ張んて顔面にパンチを何十発も入れる。


「おい準爵。俺は男爵なんだぞ? 俺の命令次第ではテメェのオヤジの首が飛ぶんだぞ!? わかってんのか!?」

「知らねえよ! 潰せるものなら潰してみろ!」

「本気か!? 本気なのか!? ガチで潰すからな!」


 そう言って泣きべそになっている悪友は大声で泣きながら帰っていった。




 その日の夜……


「コーネリアス! またジュローム男爵の子供とケンカしたのか!?」

「いい加減にしてちょうだい! これで何度目だと思ってるの!?」

「向こうが先に手を出したから反撃しただけだよ」

「そういう問題じゃないんだ! いいか!? 俺たちは準爵、相手は男爵だ! 俺たち準爵は男爵相手ではもう言いなりになるしかないんだよ!」


 爵位の違いで俺は幼少のころからいじめに遭っていた。それでも親がかばってくれればまだ希望をもって生きることが出来た。

 だが両親は家を継ぐ長男が病気もケガもせずに元気にすくすくと育っているのに安心しきっていて、次男坊である俺の事を『自分たちの子供』ではなく『準爵の子供』としか見ていないのがショックだった。

 大人になれば見返せると思った。だが大人になっても準爵というだけで格上の連中からひどい扱いを受けていた。

 特にアッシュベリー家は昔はそれなりの地位にいたので余計に「没落」の烙印が深く刻まれることになった。




「……そんなことがあったとはな」

「出来れば言いたくはなかったですがね」


 思い話は終わり、一呼吸おいてから辺境伯は俺を諭すように言ってきた。


「コーネリアス、つらかっただろう。だがもう終わったことだ。もうお前の爵位を気にするものなど誰もいない。だからこだわりすぎるな。周りの者は準爵の子というお前の地位など誰も気にしてはいない。何度も言うが、もう終わったことなんだ」

「辺境伯殿……」


 俺はしばらく間を置いたがやっぱり直感的には納得できないのか、不満をこぼした。


「……お言葉ですが、終わってないんです。私の中ではまだ続いている感じがするんです」

「まぁそう簡単に切り替えることは難しいだろうな。だがこれだけは覚えておいてくれ。私もエレもグスタフも、お前の事をバカにすることなど絶対にしない。我々は常にお前の味方だ。それだけは覚えておいてくれ」

「……承知しました」


 実際にはあまり納得はしていないが、これ以上ぐずるとろくな目に合わないと知っていたため、8割方の嘘をついて話を切り上げた。




 翌朝。その日は休みだったが、俺は朝のミーティングが終わったグスタフのオッサンに呼ばれた。


「コーネリアス、話はドートリッシュ様から聞いている。過去をまだ引きずっているんだって? いきなり切り替えは難しいだろうが、過去はどうやっても変えられない。それよりも変えることが出来る未来を見たほうが精神的にもいいぞ」

「……お言葉ですが、それが出来れば苦労なんてしませんよ。それがどうしてもできないから、こうやっていまだにグスタフさんの言う過去に引きずられているんですよ」

「ううむ。そうか……でもお前は学院長と一緒に魔女マルゲリータを討伐した国内でも有数の実力者なんだぞ? そこは誇りに思っていいし、格上の貴族も黙らせられると思うぞ? 私が言うのだから間違いないはずだ」

「そうですか……そう思えるように努力はしますね」


 辺境伯が周りにチクったんだな……余計なことを。さらに部屋を出ると偶然エレアノールと出くわしてしまう。


「コーネリアス……」

「おっしゃりたいことはわかります。過去は気にするな未来に向かって私と一緒に歩こうとかそういう類の物でしょう?」

「あら、わかってるじゃない」

「お嬢様。いい加減辞めてくださいよ。俺はしょせん準しゃ……」

「まーた爵位の話になる。大丈夫だって。誰も爵位の事なんて……」

「それが受け入れられないんですよ。俺の中では爵位は絶対であって逆らえるものではないんですよ」

「ハァ。困ったわね」


 今日は朝っぱらから最悪な出だしになった。

 なんでみんな俺の事をそんなにも丁寧に扱うんだろう。辺境伯にとって準爵なんていう俺みたいな人間はもっと雑に扱ってもいいし、「そうするべき」なのに。

 傭兵などという俺みたいな木っ端の雑魚を何で金銀宝石みたいに丁重に扱うのだろうか? さっぱりわからない。



【次回予告】


このままでは「俺なんか」のために高貴な人の人生を無茶苦茶にしてしまう。そう思ったコーネリアスは……。


第44話 「傭兵、逃亡する」

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