第35話 黒錆、狂気の錬金術師をねじ伏せる
辺境伯の屋敷近くにある教会に戦場へ夫や父親、あるいは息子に兄弟が行っている女たちが集まっていた。その中にはエレアノールの姿もいた。
(神様。もしあなたが本当にいるのでしたら、お父様とコーネリアスに祝福をお与えください。たった一人の家族である実の父親と、私の愛する人をお守りください)
エレアノールはあまり信心深いというわけではないが、それでもこうなったら彼女にできることはただ祈ることぐらいだった。それ以外何もできない自分に歯がゆい思いをしながらも、彼女は祈った。
≪エアブレイド!≫
今日で4発目となる≪エアブレイド≫の強射。さすがの俺も息の乱れが出てくる。
「はぁ……はぁ……うっ……」
でもそれなりに貢献したせいか肉の塊のような怪物である改造された人間はあらかた片付いたのか視界の範囲内においては全員倒すことが出来た。
殺されてしなびれた顔を見るとラピス第1王子を始めとして、後にグスタフのオッサンが言うにはイラーリオ子爵だのストライフ伯爵などという貴族も混ざっていたという。
倒すことは出来たのだが……めまいで頭がくらくらする。
おそらく魔力を大量に消耗したせいで起こる「魔力欠乏症」だろう。これで死んだり寿命が短くなるなどの重大な病状は出ないが一時的にめまいや脱力感などが現れるらしい。
俺は腰のポーションホルダーに忍ばせていた2本ある魔力回復のポーションの1本を取り出し、一気飲みする。
成分抽出に使ってるらしいツンとした薬品の臭いと味というだいぶ苦手なものが口に広がるが、我慢だ。
即効性をうたっている薬なのか効き目はすぐに出てめまいが収まる。
「ふぅ……」
「伝令! グスタフ様! 左翼のテラ隊から援護要請が来ております。いかがいたしますか!?」
「テラ殿が!? わかった、行こう。お前たち! これから左翼にいるテラ殿への救援に向かう。ついてこい!」
「ハァ……ハァ……クソッ! 強行軍かよここは!」
文字通り一息つく暇もない。俺はグスタフのオッサンの後を必死で追いかけた。
≪フレアバースト!≫
イザベラは剣に刻まれた呪文で景気よくフレアバーストを連発する。テラ隊の前衛を務める兵士たちが次々と炎で焼かれて焦げた死体へと変わっていく。
壁の薄くなった、というか生き残りが数えられるほどまでに減ってしまったテラに向けてフレアバーストを放った瞬間……
≪シールド!≫
彼の後ろにいたコーネリアスが放った魔法の盾がテラを守った。
「テラ殿! ご無事で!」
「おお! グスタフ、それにコーネリアス! 助かったぞ」
俺たちは敵を見る。青髪の女に、童顔なブロンドの髪をした少女。国を惑わす大いなる邪悪とその
「私が斬り込む。コーネリアスとテラ殿は援護を頼む!」
「グスタフさん、俺もオシメ持参でお供します!」
「気をつけろ。あの青い髪の女の剣からはフレアバーストが何発も出せるよう細工がされているぞ」
テラ殿の言葉を受け取りグスタフのオッサンとアンドリューが敵陣に斬り込んでいく。
雑兵が突出したグスタフのオッサンに集中攻撃を仕掛けるが盾で弾かれ全く効き目はない。逆に彼のミスリルの剣で革製の物なら鎧ごと斬り捨てられる。
上級兵か傭兵なのかはわからないが金属製の鎧を着こんだ敵兵も関節部分を集中的に斬られ、力尽き倒れていく。
剛腕から繰り出される力と、正確無比な剣さばきと器用さ、どちらも併せ持つ彼を並みの兵隊ごときでは止められる訳がない。雑兵を次々と斬り捨て道を斬り開いていく。
アンドリューも負けてはいない。相手の攻撃を絶妙のタイミングで受け流し、逆に得意であるカウンターの一撃を決める。さらに追撃もすれば割とあっけなく敵兵は倒れ、それを繰り返し次々と戦果を挙げていく。
2人を軸に戦況が大きく動き出そうとしていた。
≪フレアバースト!≫
青髪の女が向かってくるグスタフのオッサンに対して剣を向け火球を3発連続で放つがオッサンは盾でかなりの余裕をもって受け止める。どうやら対魔法加工が施された特別製らしい。
「な!? クッ!」
≪フレアバ……
続けざまにもう一発放とうとした瞬間、彼は深く
……ースト!≫
魔法は発動できたがあさっての方向に飛んでいった。
「ド素人がそんな『オモチャ』ごときで仕留められる思ったか?」
露出度の高い胸だけしか守れない鎧を着ていたのがあだとなった。腹を大きく切り裂かれ、彼女は倒れた。
「す、すげぇ……」
「あの女をあんな簡単に倒したぞ」
「俺たちも続けぇ!」
日照りでしなびれ枯れかけた植物に雨が降り注ぎみずみずしさを取り戻すかのように、数でも士気でも不利だった部隊が一気に息を吹き返した。
【次回予告】
イザベラを倒し、残るはマルゲリータただ一人。無論チート能力持ちを簡単に倒せるわけがなかった。
第36話 「傭兵と黒錆と魔導学院長、チート転生者と戦う」
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