第20話 傭兵、葬式に出る
「天にましらすわれらが父よ 願わくは御名を崇めさせたまえ。この者に
神父の祈りの言葉が墓地に広がる。今日は俺の元雇用主であった自称勇者様の葬式。彼にとって数少ない関係者として出席したのだ。
雨こそ降ってはいないが、そろそろ秋になるというのに季節外れな鉛色の空の下、アイツの両親がうつむいたままボロボロと涙を流している。
冒険者や傭兵をやってる連中で、墓の中に入れるというのはとんでもなく恵まれている。
ほとんどの傭兵や冒険者は『数字』や『消耗品』として扱かわれ、死んだらその場に野ざらし。
やがて追いはぎに遭って身ぐるみをはがされた上で、魔物やオオカミ、あるいはクマのエサになり跡形もなくなる。それが普通だ。
冒険者や傭兵のギルドによっては個人識別票のタグを発行しておりそれで生死がわかるようにしているらしいが、少なくとも生死がわかるだけでも十分恵まれているほうに入る。
生きているのか死んでいるのか、それすらわからない。じゃあとりあえず死んだことにしよう。それが俺たち傭兵や冒険者稼業のほとんどの人間の最期だ。
「コーネリアス……」
アイツの両親が言葉をかけてくる。大量の涙を流して充血した目が見ていて痛々しい。
「少なくとも解雇されるまで息子を守ってくれてありがとうございました」
「礼を言われるような事はしてませんよ。ただ契約に基づいて仕事を全うしただけですので」
「あのバカ息子があなたを解雇さえしなければこんなことにはならなかったのに……本当に申し訳ありません」
「あなた方が謝ることなんて何一つないですよ」
アイツの両親とはそんな会話を交わし、葬式は
葬式を通じて思い出がよみがえってくるが、正直あの野郎との思い出は「苦い思い出」ばかりだ。
大して稼いでもいないくせに一目惚れした奴隷の少女を買って養おうとしたり、(俺がさんざん説得して何とか止めさせたが)
ゴブリン相手に「俺より強い奴はいないのか!?」と調子に乗ってたところ、リクエストにお応えして首領のトロルが出てきたら俺の陰に隠れて指示を飛ばすだけの臆病者だったり、
若くて服装がエロいだけで実力は2の次、それでいて相場より高めの女冒険者や女傭兵を雇おうとしたりとろくなものがなかった。
屋敷に帰ってくるとグスタフのオッサンが出迎えてくれた。
「コーネリアス、確か旧友の葬式に出たとか聞いたぞ?」
「旧友ですか……勘違いしないでください。俺はあいつの事は今でも大嫌いですよ」
「じゃあなんで出たんだ?」
「……そりゃあいつの事は『嫌い』でしたよ。でも、『憎んだ』ことはありませんでした。ましてや死んでしまえと思ったことは1度も無かったですよ。
だから葬式に出たんです。一応は知り会いなんでね。知り合いの葬式に出ないというほど俺は薄情でもないので出たんです」
俺はあいつの事は大嫌いだった。討伐任務では前衛用の装備なのに少しでも強い敵が出たら俺の後ろに回って指示を飛ばすだけの臆病者。
そのくせギルドにおいては自分の成果だとかたくなに主張する口先だけの勇者様だった。
おまけに「英雄、色好む」を地で行く性格で(実際にはこれっぽちも英雄らしい所は無かったが)、パーティメンバーに求めるのは「若くて露出度の高い女」であって、実力は2の次という典型的な道楽勇者様であった。
アイツの父親が「息子を支えてやってくれ」と俺に頼みこんだ理由もわかる。そうでもしなければもっと早く魔物かクマにでも食い殺されていたであろう。
そんなアイツだったが、憎むことはなかった。しょうもない人間だとは思っていたが、しょうもないと思うまで。それ以上はいかない。
アイツの判断はいつも愚かで間違っていたが、それでも経験の浅い一人の人間としては許せる程度ではあった。
だからこそ、罪のないアイツの人生をぶっ壊したあの野郎どもは許せない。
「今回の件はイザベラが関わっています。少なくともあのババァをぶちのめさねえと腹の虫がおさまらないですよ」
「なるほど
「もしもアイツが望んでいなかったらあの世に逝ったときに『勝手な事言ってゴメンナサイ』って謝りますよ」
この戦いはもうエレアノールだけのためじゃない。あいつの敵討ちでもある。
愚かな上に
絶対に追い詰めてやる。覚悟しろ。
【次回予告】
マルゲリータの牙城に、あえて斬り込んでみる事にした。「もしも」はありえるから。
第21話 「傭兵と悪役令嬢、ストライフ伯爵を訪ねる」
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