第14話 傭兵、酒に呑まれる
「……遅い。遅すぎる。コーネリアスったらどこで何してるんだか」
私はコーネリアスの帰りが遅いことにイライラしていた。いつも門限30分前には帰ってきているけど、今夜はそれを30分もオーバーしている。
「もう門限は過ぎたというのに帰ってきませんな。多分飲んでるんでしょう。目星はついていますので迎えに行きます」
「私も一緒に行っていい?」
「……お嬢様の様なお方の行く場所ではない大衆酒場だと思いますがよろしいのですか?」
「構わないわ。グスタフが警護すれば安心できるし」
そう言って半ば無理やりにグスタフに同行させてもらった。
酒場に着くと私とグスタフは店内を見渡す。すぐに濃緑色の三角帽子とローブを着たコーネリアスをみつけた。
「何だぁ? グスタフのオッサンにエレアノールじゃねえか。元気してるかい?」
「コーネリアスったらこんなとこ……うっ! お酒臭っ!」
彼は完全に酒に『のまれて』いた。吐く息がとにかくお酒臭い。
「オイ! コーネリアス! 飲み過ぎだぞ!」
「グスタフのオッサンよぉ。ちょっと聞いてぇ。どうせ俺は没落貴族なんだよ。昔はもっと上の階級だったけど今では準爵だぜじゅ・ん・しゃ・く! どんだけ実績残そうがしょせん俺はこの世に産まれた瞬間から落ちこぼれの落第生なんだよ。
そりゃあお前俺は強いよ? その辺の連中とは比べ物にならない位にはさぁ。それでもさぁ、『でもお前没落貴族じゃん』って言われたら反論の余地がこれっぽちも無いんだよ!? 分かりますかその苦しみってのが!?」
グスタフに向かってグチをたれる彼は完全に『できあがって』いた。
「おいマスター、
「お前にはもう出せん」
「何だよつれねえなぁ。俺とマスターとの仲でしょうに! それともアレか? 没落貴族とはこれ以上付き合ってられねえとかそう言う態度をとるんですかぁ!? えぇ!? 俺はお客様なんだぞお客様!」
「もういい分かった。今日はこの辺でおしまいだ」
「えー!? オッサンもマスターに加勢す……」
グスタフはゴネるコーネリアスのみぞおちにきつい一発を放つ。彼はうめき声をあげた後グスタフに寄りかかるようにぐったりとしていた。
「ちょっとグスタフ! そんな手を使わなくても!」
「酔っ払い相手では話し合いは通じませんから、こうでもしないと収拾がつきません。さあ帰りましょう、お嬢様」
潰れたコーネリアスを背負いながらグスタフと一緒に歩いて屋敷へと戻る最中、話をする。彼は正でも邪でもない微妙な表情を浮かべていた。
「お嬢様。私としては、今回の件に関しては彼の事を決して責めないでほしいのです」
「グスタフ、どういう事?」
「人間というのは誰しも重荷の1つや2つを背負って生きているものです。自分の力ではどうしようもできない何かを、です。
そこを責めても、責められた本人にはどうする事もできませんし、それに関して話し合ってもただただ不毛な論議が続くだけです。
王族や、お嬢様の様な貴族の中でも恵まれた立場にいる者ではない、ほとんどの人間というのはそういうものです」
夜風に当たりながら私たちは話を続ける。
「グスタフも何か抱えてるって事?」
「ええ。私も色々抱えてはいます。ただそれを表ざたにしないだけですがね。生きていれば酒を飲んでごまかす以外に解決のしようが無い理不尽なことだってあるのです。
なので酒におぼれて醜態をさらしても、そこを責めないで下さい。その辺はその……人間が生きる上での優しさってものです」
「そう……コーネリアスったら没落貴族出身の事をずいぶん卑下してたけど、かなり家の名前を気にしてるみたいね」
普段あれだけカッコつけてる彼にもそんなもろい所もあったのか。知らない部分を知れて変な話、ちょっと得したような気もした。
翌朝……
「ハッ!」
気が付いたら俺は自分のベッドの中にいた。が、寝室まで戻ってきた記憶はない。
かすかに覚えているのは酒場で5杯目の
「グスタフさん、もしかして俺昨夜とんでもなく失礼な事をしてしまったのでしょうか? 実を言いますと昨夜の記憶が飛んでしまいまして……」
「何だお前! 記憶が飛ぶほどのんでたってわけか!? ……まぁいい。今回は大目に見よう。2度目は無いと思えよ」
「は、はい。申し訳ございません」
「あ、エレアノール様! お嬢様の家の名を汚すような恥知らずの行い、どうかお許しくださいませ!」
「分かったわ。ツケにしておくから後で返してね」
酒にのまれるという大失態を犯してしまったというのになぜか2人は優しかった。お前はクビだ! と言われてもおかしくないのに。そこもまた怖い。
【次回予告】
入院したり酒におぼれたりして遅れていたアミュレット作成。
それが終わって今度は配る事になった。
第15話 「傭兵と悪役令嬢、第2王子に会う」
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