第47話 「香ばしい匂い」
土曜日の昼間、新宿を走っていた。
繁華街には人が多く行き交い、右にも左にも流れていく。
交差点で信号待ちをしていると、
「こんだけ人がいるのに一向に乗る気配がない」
と思う瞬間もある。
同じ周辺を何周回っても乗ってこない。
少し違う道を行こうと、飲み屋や飲食店の多くあるところを通ってみると
1人の男性が手を上げた。
「うわ、まさか昼間から飲んだ客乗せるのか」
そう思いながら近づくと、その男性はタクシーを止めるために車道に出てきていた父親で、お腹を大きくした母と息子二人が歩道に立っていた。
30代中盤の夫婦に7歳ほどの長男と2歳ほどの次男の四人。
土日祝日の昼間は親子連れをお乗せすることは多い。
ベビーカーを押したお母さんや、お腹の大きなお母さんをお乗せすることもしばしば。
命を預かる職業として気が抜けない。
小さいお子さんにとっては、事故でなくても急ブレーキすら大けがの原因になる。
慎重に運転をしていると、車内には
香ばしいく食欲を刺激する匂いが漂ってきた。
後ろでは、お子さんが口を拭いてこなかったという会話がなされている。
少し遅めのお昼ご飯を済ましてきたのだろう。
お子さんの口元に残ったモノが原因なのか、それから一斉に香ばしい匂いが充満していった。
「あそこのお肉は美味しいよ」
お母さんがそんなことを言っている。
「焼肉行くなら. . .」とお父さん。
焼肉に行っていたらしい。
どおりで。
そんな匂いだった。
「帰ったらどこかいくのー?」
「今日は注射したから、家帰ったら寝るんだよ」
遊びたそうにしている長男に母は予防接種の話と、遊ばない方が良い理由を
「身体の中の細胞さんが戦えなくなっちゃう」という例えで説明している。
午前中に予防接種を受け、その帰りに焼肉に行き、
これから午後は家でゆっくりする。
家族の静かな日曜、といった感じの日が見えてきた。
いつの間にか、後ろでは会話も終わり、
目的地も5分ほどで到着した。
支払いを終え、父と次男を抱えた母、と降りるが
長男がモタツイテいる。
「眠くなって不機嫌になってるよ」
そんな会話を夫婦が交わした後、長男は降りて行った。
お腹いっぱいになった後、眠くなる、
きっと最高の休み。
無事にお送りできてよかった。
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