第46話「酔っ払いクジ」

愉快な空気がお客様との間に漂いながら

「なんだよ!笑」

と言ってしまう。

お仕事としてではなく、ちょっとした遊びのある会話の瞬間が好き。


酔っ払い客との出会いはくじ引きのようで、

ゲップを頻繁にする酔っ払い客が乗ると車内で吐くのではないか?

と恐れる。

一番厄介なのが、状態は一見普通だがなかなか酔いが回っている客。

今にも吐き出しそうな目をしていれば、避けることも可能だが

見た目と実際が違うのが一番怖い。


あ、シメのラーメンを食べたお客様のゲップ後の車内の臭いにも

恐ろるべき破壊力を感じる。

これが実は一番かもしれない。


そんな酔っ払い客への不安は多いが、そればかりではない。

楽しい瞬間だってある。


六本木の芋洗坂、辺りには二軒目三軒目へ移動する者やクラブのある方向へ歩く派手な格好の者もいる。

落ち着きのない六本木はここ最近減って来たが、平日夜でも賑やかなその日は一年半以上も前のことだった。


芋洗坂の通りを走っていると、40代ほどの男3人が道の先に見えた。

1人はグデングデンに酔っ払い、あとの2人が介抱している。

手を上げたので停まると、酔って陽気になり明日も仕事なのにまだ飲み続けようとする友人を帰そうとしているところだった。


「これで帰れ!ちゃんと帰れよ」

そう言って、介抱するうちの一人が3万ほど渡し、乗って来た酔っ払いは

「ありがとうございまーす!」

と、受け取るも飲む気が収まっている気配はない。


一先ず扉を閉め、行き先を伺うと「ちょっと真っ直ぐ進んで」

と言うとこちらへ絡みだす。

「あれ、運転手さん、若いね!」

「そうですね、運転手としては若いほうです」

「こんな若い運転手さん初めて会ったよー!」

「あ~そうですか」

「それに、なんだ!若いイケメンじゃねぇか」

「いやいや、そんなんじゃ」

「タクシーやってんの?」

「はい、そうですね」

「もったいないな~」

「そうですかね~」


初対面ではあるが、助手席の頭の位置に手を置きながら話しかけてくる

お客様の陽気さと人懐っこい雰囲気に少しずつ楽しくなっていく。


「運転手さん、なんかあのタレントに似てる、

「え、だれですか?」

「誰だっけ、えっと~、、まあいいや」

「はっはっは!笑」

「とにかく、カッコいいよ、運転手さん、若いのにもったいない」

「ありがとうございます、えっとこの先は~?」

「もうちょっと行ってもらって、、あ、そういえばさぁ、さっき3万貰っちゃったよ!」

「えぇ、見ましたよー」

「太っ腹なんだよー、あの人」

「そんな感じしましたね~」

「これでもう一回飲んでくる!」

「え!いいですね~笑」

「あ、ここでいいや!」

「かしこまりました」


その距離、僅か100m。


「410円です」

「じゃあ、お兄さん、さっき貰ったから1万円置いとくから」


そう言って笑顔で僕を見る。


「お釣りも要らない!」

「え!!ホントですか!?」


まさかのチップが頂けると思い嬉しく反応すると、1秒ほど間を空け


「嘘だよ~~笑」

「なんだよそれ!笑」


接客ではなく、友達との会話のようになってしまった。

お客様もその反応を望んでいたのかのように楽しく笑っていた。


ほんの一分ほどではあるが僕もその瞬間が楽しかった。


良い酔っ払い客とはとても距離感が近くなる。

今回のように40代の方と友達感覚になることもあれば、

酔った女性客が甘えるようなときもある。(可愛いから困る)

到着して起こそうとしても寝言であしらわれることもあれば、

(全く起きないし、変なこと言ってる笑)

起きているかのようにずっと「真っ直ぐ」とだけ言う者もいる。

(真っ直ぐと言う瞬間だけ起きるが寝てるから行き過ぎる)


吐かなければ、どのお客も当たりクジ。

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