第40話 「なんか良い時間」

「おーい、スマートフォン忘れてんでー」


降りて行ったおじちゃんに、「お客様、お忘れ物です」と伝えると

先に降りて少し先で待っていたおばちゃんに声をかけた。


日曜日の朝一、おじちゃん1人におばちゃん二人、

三人ともスーツケースを持ち、なかなかタクシーは来ないであろう通りで

待っていた。


スーツケースをトランクに入れるのを手伝い、お乗せして向かっていると

助手席に座るおじちゃんから

「やっぱり日本のタクシーはええねぁ、親切やなぁ」

笑顔でそう言ってくれた。


「ありがとうございます!そう仰るということは、

他の国のタクシーも利用したことがあるのですか?」


「そうやねぇ、ロンドンのタクシーはぜんぜんせんよ」


「えっ!そうなんですか?ロンドンタクシーと言えば

試験が難しいとかで有名なのに」


「うん、全然やねぇ、それに車間なんてツメツメで

こんな安心して乗ってられへんかったわ」


「へぇー、意外ですねぇ」


「まぁ、紳士なのは紳士なんやけどな」


「へぇ~」


助手席のおじちゃんと僕で話している間も、

後ろのおばちゃんはたまにこちらの会話に入りながら二人で喋っており、

終始、穏やかで少し賑やかに最後までお送りした。


おばちゃんは飴をくれ、おじちゃんは折り紙をくれた。

聞いてみると、これから折り紙の全国大会があるらしく

その会場らしい。


三人がタクシーを離れた時に、もう一度客席を確認すると

スマホが忘れられていた。

声を掛けると


「おーい、スマートフォン忘れ点で~」


初めてきちんと関西弁を聞いた気がする。

なんかいい時間だった。



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