第23話「おともだちになる瞬間」

終電亡くなった深夜、繁華街でお客様をお乗せする。

年齢は50代ほどのスーツ姿のほろ酔いの男性。

お仕事のあとの会食か何かだったんだろう。

疲れ切った様子で行き先を告げると、

「近くまで行ったら起こしてくれ、それまで寝てるから」

と眠りに入った。


行き先を言って、眠ってくれると一番楽にお送りすることができる。

遠回りをする気があるのではなく、絡まれたり、余計な邪魔をされるくらいなら眠ってもらった方がマシ。


問題なのはそこからだ、

酔ったお客様が眠りに入ると、起こすのが大変。

眠っているところを無理やり起こすのも

やっぱり気が引けるところはあるし

なにより、起こしたところで大抵のお客様は寝ぼけている。


所定の目的地に到着して「到着いたしました」と起こすも

「あ~真っ直ぐ」と言われ、進んで行くと実際は行き過ぎていたことなんてザラである。


それによって疑われることは心配のひとつだが、

その時に一つだけ好きな瞬間がある。


それが、寝ぼけた様子で話しかけてくるお客様が

「ともだち」かのようなラフさの時。


到着し、起こすと

「あ~、だめだ、飲みすぎちゃったよ」

から始まり、

「あ、ここ俺んちの近くなんだよ」

と当たり前言われ

「あー、よしっ」

とお支払いのやり取り一つ一つが

麻雀をしているかのようになり

「飲みすぎちゃった~」

と再び戻る。


そして最後は、

「あーす、あしゃざーす」

と、言葉にならない挨拶で降りていく。


ほろ酔いと、寝ぼけで一番気持ちの良い状態のお客様が友達になる瞬間

それが一番好きだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る